第10話 ダンジョンでの特訓
「はああぁ‼︎」
掛け声と共に勇者の剣を振るい、襲い掛かってくる最後の大蝙蝠を両断する。
「ぴぎーー‼︎?」
オレンジ色に照らされたダンジョンに魔物の断末魔が助けを求めるように響くも、やがてその声に呼応するものがいないと悟ると、諦めたかのようにその声はか細く絶える。
「敵影なし……と」
静寂の支配するダンジョンの中、呟いて勇者の剣を鞘へと納める。
と。
「はー……軽く1時間潜っただけなのに、もう20匹は魔物を倒したか? 低レベルとはいえ、これだけの魔物を軽々とは、さすがは勇者様ってところだな」
どこに隠れていたのか、物陰から感心したような表情でフレンがひょっこりと姿を見せる。
「そんなことないよ……結構息があがっちゃってるし、自分の実力不足を思い知らされるよ……」
「なぁに、まだまだこれからだろ? 水飲むか?」
「ありがとう」
切れた息を整えながら、フレンからもらった水筒の水を飲む。
石で囲まれたダンジョンは気温が低いため、喉を通る水も冷たくて気持ちがいい。
「はぁ……しかしこのダンジョン〜ウーノ〜の街に結構近い場所にあったけれど、どうやって見つけたの?」
「ここはもともと国が管理してた神話時代の遺跡だったんだけどな、魔物が湧きやすくなって国が管理を手離したお陰で、ダンジョン認定が降りて出入りが自由になったのさ」
「魔物が湧くの? それにしてはこの辺り近くに村はあるし、騎士団もいないエリアだよね? そんな危険な場所なのに放置なの?」
「入り口に強力な結界が張ってあんのさ。触れば上級悪魔も真っ黒焦げになるような代物がな。お陰で人間は自由に行き来ができるが魔物は外に出られない……魔王の登場で魔物の数が増えている今、すべての駆除が難しいなら魔物の住処を閉じちまおうって考えた奴がいて、ここはそれを実行した場所なのさ。ウーノの街はその封印を率先して行った街……だから魔物も少なくて平和なんだよ」
「そんな強力な封印……一体誰が」
「お前の姉貴に決まってんだろ、そんなアホみたいな魔法使うの。封印の数が多いのも、お前達の行動範囲がここら周辺しかほとんどないからだよ」
「また姉ちゃんか……」
なんだかんだ知らないところで大活躍をしてるよな……。
力の差が一行に埋まらないわけだ。
「まぁ、アンネのかけた封印だ。ちょっとやそっとじゃ破られる心配もないってみんな知ってる。だからわざわざ危険に飛び込もうってやつはそうそういないんだが、お前みたいに腕試しに飛び込むやつもいりゃ、未開拓のダンジョンに眠る宝を求めて潜る奴も何人かはいるってことさ」
万面の笑みを浮かべ、両手に持った財宝を見せつけるフレン。
姿が見えないと思ったらどうやらダンジョン探索をしていたようだ……。
「つまりフレン……お前僕をおとりに使ったな?」
「そりゃそうだろ? お前が魔物を引き付けている間に、俺は安全に宝をいただく。お前はレベルアップできるし、俺は宝をゲット。ウインウインの関係、親友ってそう言うものだろ?」
「……正直その宝の半分くらいは僕も貰う権利がある気もするけど」
「こんな大金もらったらレベル上げのこと姉貴にバレちまう……そうだろ?」
したり顔でこちらをみるフレン。
「最初から計算づくってわけね」
「当然‼︎ いやぁ、持つべきものはチョロアマな勇者様だ。お陰で俺は大儲け、笑いが止まりませんなぁ!」
よし、こいつはこれから盾として使おう。
「フレン、時間もいい時間だし次のフロアで終わりにしようか」
そしてそこがお前の墓場だ。
「そうだなぁ、あらかたここらの宝も取り終えたことだし、盗賊袋もあとそれぐらいなら余裕が……」
『のじゃあああああああ‼︎?』
会話を遮るように響く声。
どこか間が抜けたものではあるが間違いなく助けを求める少女の悲鳴であり。
その音は間違いなく、明かりの灯らないダンジョン深部……未踏破のフロアから響いてきた。
「悲鳴? しかも女の人のだ」
「おいおい冗談だろ? 逢引の待ち合わせ場所でもあるまいし……大方〜
『だ、だれかー、たす、たすけ……のじゃあああぁ‼︎?』
再度奥から響く少女の声……。
人の声を真似て襲いかかってくる魔物とは何度か対峙したことはあるが、どうにも今回のは違うように思えた。
「もしかしたら僕たちと同じ冒険者かもしれない」
「まじかよ見に行くつもりかお前‼︎? たとえ本当に冒険者だったとしても、ダンジョンで冒険者が死ぬのは自己責任だろ。 首突っ込んで俺たちまで巻き添え喰らう必要なんて……」
「困ってる人がいるなら助けるのは当たり前のことだから。 別にフレンは来なくてもいいよ? その大荷物抱えて、護衛なしで無事に帰れるといいね」
両手に抱えた財宝に目をやり青ざめるフレンに、僕は出来る限りのしたり顔をお返しする。
「っ〜〜〜〜‼︎? あーもぅ、本当‼︎? さっきの発言は撤回だ、扱いにくいよお前ってやつは‼︎? ついていくけどさぁ‼︎」
泣きそうな表情のフレン。
そんな彼の表情に僕は満足しつつ、ダンジョン深部へと向かうのであった。
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