第9話 悪友フレン
「はぁ〜ぁ……」
翌日、家計簿を見つめながら僕は一人冒険者ギルドにある酒場にてため息を漏らす。
ため息をすると幸せが逃げるんだよ……なんて姉ちゃんはよく言うが、今回ばかりはため息も付きたくなるだろう。
「借金……200万ゴールドかぁ」
姉ちゃんが外壁を破壊したせいで旅のために溜めていた貯金はすっからかん。
おまけに足りない分は借金で賄ったため……返済が完了するまでは住居を移動することができなくなってしまった。
一年間かけて旅のお金を稼いでいたと言うのに……全てがまた振り出しに戻ったのだ。
ため息の一つでも付きたくなると言うものだろう。
「ようよう、随分と暗い顔してるなぁ勇者様? 女にでもふられたか?」
と、一人頭を悩ましていると、軽薄な声色で冒険者が一人僕に声をかけてくる。
見るとそこには情報屋のフレンが立っていた。
「茶化さないでよ、フレン」
「ははっ、悪い悪い。 それでどうしたんだ? お前の姉貴が作ったゴーレムのせいで、借金でもこさえることになったか?」
「嫌な奴だな本当に君は、分かってるくせに逐一聞いてくるんだから。嫌がらせなら他を当たってくれ」
からかうように笑うフレンに、僕はしっしと追い払う仕草を見せるが。そんなことお構いなしと言った様子でフレンは勝手に僕の対面に腰を下ろす。
「つれないなぁ、それが親友に対する態度かよ?」
「誰が親友か誰が、行き倒れてるの助けてやっただけだろ」
「それだけの縁があれば俺とお前はもう十分友達だろ? これでも健気に命の恩人の助けになれるように尽力してるんだぜ? 借金で困ってるなら、俺の情報で力になるぜ?」
「結構ですお疲れ様どうぞ今日はお帰りください」
「お前、本当に姉貴以外には冷たいよな……」
「そんなことないよ。フレンに冷たいだけ」
「それはそれで傷つくな……というか」
やれやれとため息をつくとフレンは何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回し始める。
「どうかした?」
「今日はお前一人?」
「そうだけど?」
「珍しいな。アンネの奴いつもはお前にべったりなのに、とうとう弟離れできたのか?」
「だったら良かったんだけどね。残念ながら食材の調達に行ってるところ……三日は帰ってこないって」
「食材の調達に三日? おいおい、隣町まで食材取りにでも行ってんのか?」
「いんや、借金背負ってお金が使えないから……食べられそうな魔物討伐のクエストをかき集めて狩りに行ってるところ。狩りのスキルがない僕は邪魔になるだけだから、こうして街で留守番してるってわけさ」
「狩りって……賢者がやる事じゃないだろ。化け物かよ」
「知らなかったの? 僕はゴーレムを仕込み杖で両断した時には気付いてたけど……はぁ」
再度ため息を漏らして遠い目をする。
またどっかで、調子に乗って借金を増やしてやいないだろうか。
……不安だ。
「なんか、改めてすげえ姉貴だよな、お前の姉ちゃん……なんていうのかその、型にはまらないというか……色々とでかいっていうかなんていうか」
「規格外?」
「そうそれそれ! 魔法は文句なしの一級品、格闘も剣術も一線級の万能賢者。もしかして魔王よりも強いんじゃ……なんて噂も王都の方じゃ流れてるって話だぜ?」
「はは、だったとしてももう驚かないよ……本当、困った話だよ」
「困るのか? アンネが強い分お前は楽できてラッキーじゃんか」
「確かに楽だけど、おかげで僕は守られてばっかさ……本当は、僕が姉ちゃんを守りたいのに」
僕の発言にフレンはきょとんとした表情をする。
「守る必要があるとはおもえねえけど……」
「確かに姉ちゃんは強いけど、一人の人間なんだよ? いつか限界もやってくるし、一人じゃどうしようも無い時だってあるさ」
「まぁ……たしかにそう言われりゃそうかも? いくら強くても全能ってわけじゃねえわけだし」
「そうだろ? だけどそんな時が来ても、今の僕じゃ姉ちゃんを守れない……きっと頼ってすらくれない、それが嫌なんだ。姉ちゃんが好きだからこそ、僕は姉ちゃんの後ろをついていくんじゃなくて隣を並んで歩いていきたいんだよ」
「泣かせるねぇ……そのセリフ直接本人に言ってやれよ。感動で失神するかもしれないぜ?」
「もう言ったし、鼻血吹き出しながら失神する姿ももう見たよ。そのおかげで、勇者の剣を改造するって条件付きで一緒に戦うことを許してくれるようになったけれど……」
「お前とアンネの差は依然広がり続けるばかりと……」
てっきり茶化されるかと思ったが、フレンは思ったよりも真剣な面持ちで何かを考えるような素振りを見せた。
「そういうこと……姉ちゃんがいない間にクエストを受けようにも、パーティーメンバーには受けたクエストは共有されるから、すぐにバレちゃって……」
「こっぴどく叱られるのか?」
「叱られはしないけれど……毎回転移魔法で先回りされて、到着する頃にはクエストクリアされちゃってるんだよね」
「過保護もそこまで行けば病気だな」
「だろ? おまけに街の外で魔物を狩ってレベル上げをしようにも……この辺りの危険な魔物は姉ちゃんに狩られ尽くしちゃってるし。ちまちま弱い魔物は倒してるけれど、姉ちゃんの目を掻い潜って……てなると、大した経験点かせぎにはならないんだよ」
ここまで言って再度ため息が漏れる。
自分でも姉ちゃんと自分の力の差が埋まるような気がさらにしなくなってきた。
しかし。
「……なるほどなるほど。つまり少年、ようは内緒でレベルアップを図りたいとそういう事だな?」
フレンはどこか都合が良さそうににやりと口元を吊り上げる。
胡散臭い上に顔が近い……。
「……なんだよ声色まで変えて気色悪いな」
「いやいや、友人の力になれそうな情報があるから素直に喜んでいるだけだって。 いい稼ぎ場の情報があるんだけどよ……興味あるか?」
「稼ぎ場?」
その言葉に、僕は首を傾げて身を乗り出す……と。
「……実は近くに魔物の封印されたダンジョンがあってな」
フレンは声を潜めて、そんな情報をそっと耳打ちしてきたのであった。
◇
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