第2話 Side セレン episode.2

 抱えた思いを伝えられないまま

幾年も過ぎてしまうばかり。


それでも、彼の隣に入れることが

今の私に出来る最善の選択だった。


新たに友達を作らない彼の選択が良いのか


それに舵を切らせる方が良いのかは

いまだに判断がつかなかった。


そして


彼にとって心許せる友人が

私1人なのだということに


一種の優越感

いや、独占欲が満たされていたのも事実だ。


この狭い世界に閉じこもって居てほしいとは

思わないけれど


もっと広い世界を知って

様々な人に触れ合えば


きっと彼は私を忘れてしまうだろう。


私への憧憬も

かすかに抱いてるであろう恋慕も


簡単に塗り変わってしまう。


それが怖かった。


 自分でも卑怯者だと思う。

こんな方法で、狭い世界に縛り付けて

彼の隣の席を確保しようとしているのだから。


そんな考えが変わったのはいつからだったろうか。


 変わった、というよりは

変わらざるを得なかった

といった方が正しいかもしれない。


病室から出られなかったウイングは

人の何倍も時間をかけて

街を歩くことが出来るようになった。


もちろん

隣には私が付き添うという

条件下ではあったけれど


それでも、満開に花をつける桜並木で

彼は微笑んでいた。


今までに見た事のない程に


嫋やかで


ただ、綺麗だと


そう感じた。


 それに見惚れていたのだけれど


彼は勘違いしてくれたようで


『そんなに見惚れるほど

セレンはここの桜並木が好きなんだな』


と話してくれた。


ここで貴方に見惚れてたんだと

そう告げてしまったら

貴方はきっと

目を見開いて、全力で否定をして

『冗談言うなよ』とか

そう言って

この話を終わらせてしまうの。


……そもそも、そんな事を

告げる勇気もないのだけれど。


それでも、貴方の世界が広がって

それまで虚無だったガラス玉の瞳に

光が差して、色がついて


嬉しそうに話す姿を見ていると


この世界には、もっと面白いことが

たくさんあるんだよって


ウイングを連れて行きたい場所が

たくさんあるんだよって


伝えたくなった。


 そうして、少しづつ学校にも行けるようになって

まだ、私の隣にはいてくれるけれど


話せる人も増えていって

貴方の周りには


不器用ながらも懸命に生きる

貴方に惹かれる人達が

集まってきていた。


 これなら

きっといつの日か


私を忘れてしまったとしても

大切な存在がと場所を入れ替えても

ウイングは大丈夫。


私は

貴方が生きていてくれるのであれば


それで良いのかも知れないと

ここで身を引く方が

自分自身の為かも知れないと


そう感じ始めていた。

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