ホ別10のドラキュリーナ

北元あきの

第1話

1.ホテルいきましょ

FJK吸血鬼ちゃん@draculina

#サポ希望

#ホ別10

#FJK

#都内

#裏垢

#NS

#基盤

#助けてください


sakurasakura@nekolove

まだ大丈夫ですか?


FJK吸血鬼ちゃん@draculina

大丈夫ですよー。


sakurasakura@nekolove

池袋に15時でどうですか?


FJK吸血鬼ちゃん@draculina

ぜひお願いします!


sakurasakura@nekolove

ホントにJK?


FJK吸血鬼ちゃん@draculina

学生証の写真送りますよ。


sakurasakura@nekolove

京都の学校なの?


FJK吸血鬼ちゃん@draculina

そうですよー。

京都からきてます。


◆◇◆◇◆


「おまたせしまた、おにーさん。FJK吸血鬼ちゃんです」

 池袋駅にある『いけふくろう』とかいうモニュメントの前でまっていた俺の前に現れてSNSのアカウント名を名乗った女の子は、そういうことを絶対にしなさそうな感じだった。

 サポとか、ウリとか、エンコーとか――言い方はなんだっていいが。

 つまりはそういうことをだ。

「あれ? もしかして間違いました?」

 俺が黙っていると、彼女はバツが悪そうに笑った。

「いや、あってますよ。あってます」

「よかった。間違って話しかけてたら、ホントに変な女の子だと思われる」

「なんで制服?」

 俺は思わずそう言っていた。

 彼女はなぜか制服にスクールバッグひとつだった。

 送ってきた学生証の画像が本物だとしたら、京都の高校の制服ということになる。

 淡い青色のロングワンピースで、腰高のベルトでウエストのラインがよくわかる。

 女子高生の制服なんてブレザーとチェックのスカートだと勝手に思い込んでいた俺からすると、まったく馴染みがない。

 アニメや漫画に出てくるお嬢様学校みたいだった。

「いろいろと事情があるので」

 それはそうだろう。

 いろいろな事情がなければ、ホテル代別で十万なんて値段で、エンコーなんてやらない。

 いくら本物のJKで、NSで、基盤だったとしてもだ。

 だから、興味をもった。

「ヒナタです」

 突然、彼女はそう言った。

「あ、わたしの名前。アカウント名で呼ばれるのも変なので」

「そりゃそうだ」

 当然、偽名だろうけど。

 俺はヒナタと名乗った自称・FJKを改めて見た。

 端的に言えば、ものすごく可愛い。

 女の子にしては長身で、スタイルがいいのはワンピースを着ていてもよくわかる。

 なんなら身長は俺より低いけど、脚は俺より長い気がする。

 小さな顔に大きな目と口、整った鼻梁が絶妙なバランスで配置されており、代官山や青山なんかを歩けばすぐにでも芸能事務所やモデル事務所にスカウトされるんじゃないかと思う。

 男からしたら中途半端に思える長さの黒髪すら、よく似合って見える。

 いままでの人生、さぞかしモテてきたに違いない。

 告白された人数をさらっと言って、嫌味なく全員振ったと答えそうだ。

 そのくせ、お高くとまった感じもせずに話すと妙な愛嬌がある。

「おにーさんは?」

「なに?」

「名前ですよ。名前」

 長いまつ毛の大きな目をぱちくりさせて、ヒナタが言ってくる。

 なんかもう、ドッキリなんじゃないかと思えてきた。

 俺に仕事を依頼したクライアントが、仕込んでるんじゃねえだろうな?

 そう、これは仕事であって、俺がマジでJKとエンコーしようってわけじゃない。

 だから、俺は本名を名乗ることにした。

「桜井です」

「サクライさん?」

「はい」

「へー。キレイな名前ですね」

「そうか?」

 普通、そういうことは名字には言わないだろう。

「はい。わたし、桜が好きなので」

「桜ね。そしたらあと一年またないと」

 俺は適当に会話を続けた。

 いまは桜の季節が終わったばかりの五月で、地球温暖化の影響かは知ったことじゃないが、もうすでに初夏を思わせる暑さだった。

「そうなんですよ。すぐに終わっちゃう、儚い花ですよね」

 彼女は小さく笑った。

 俺は彼女にとってJKに十万払ってエンコーしようかって気持ち悪いおじさんでしかないわけだが――そんなやつに言う、取ってつけたウソには思えない表情だった。

「さて。それじゃあ、おにーさん」

 俺が本来の目的を告げるために名刺を取り出そうと思っていると、彼女は上目遣いになって囁いた。

 目が合う。

 赤い瞳だ。

「ホテルいきましょ」

 駅のアナウンスと雑踏が、彼女の声をかき消す。

 その言葉に、なぜだか抗えない。

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