あとのまつり
田丸 楡
第1話 黄昏
夏祭りの日だった。
小さな子どもたちが華やかな柄の浴衣の裾をはためかせて目の前を走り抜ける。これから屋台に向かうはずなのに、すでにキャラクターのお面を手に嬉しそうに笑っている子どももいる。この小さな町では昔から、夏祭りの日には学校が半休になる。小学生から高校生まで、朝からうきうきとした空気に包まれ、授業が終わるやいなや、皆足早に帰宅するのだ。
太陽が傾き、橙色の光が背中を照らす。日中の照りつく強い光とは比べものにならないとはいえ、真夏の夕暮れ時はまだまだ暑い。ワイシャツが肌に張り付くのが気持ち悪く、胸元を持ってばたばたと風を送る。
いつもの道を曲がろうとしたとき、瑛太郎の足が止まった。数メートル先でたむろする男子学生たちの笑い声。見るからに素行の悪い奴ばかりだ。自転車に跨がる少年ひとりと、そのまわりを囲む三人。この近くの高校の制服のままで、大声で笑い合っている。彼らの前を通らなければ家に帰れない。こちらは大人で、特に嫌なことをされたわけじゃないが、出来るだけ関わり合いたくない。この近くの高校の生徒はなにかとたちが悪いので有名だ。情けないと思いつつも、瑛太郎は彼らとは反対方向に歩き出した。一度回り道をしてもう一度ここに戻ってくる頃には、いなくなっているだろうと踏んだ。
早く家に帰りたかった。とにかく暑いし喉も乾いている。シャワーを浴びて、クーラーに当たりながらビール片手にテレビを見る。祭りへ行くつもりはない。
瑛太郎は元来た道を戻っていた。いつも通り過ぎる細いわき道に近づいた時、どこからか小さな少女の笑い声が聞こえてきた。
足を止め声のする方を見ると、細道の奥に二階建ての一軒家が見えた。その玄関、焦げ茶色の扉の前に少女はいた。白地に朱赤の金魚の柄の浴衣に、山吹色の
(こんなところに家があったか?)
少女はたっぷり水の入った、ピンクに黄色い水玉のヨーヨーを不器用に上下させて遊んでいた。ぱしん、ぱしんと小気味いい音が響く。少女はうまい具合に手の中に戻ってきたヨーヨー玉を嬉しそうに見下ろす。その手のヨーヨー玉に横から大人の手が伸びた。
その手は男のものだった。
日に透けて茶色く見える髪がふちどる顔は端正で、少女に向かって優しく微笑みかけている。
少女の口元が、ぱぱ、と動いた。
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