第38話「最終話 付き合お」
「ここ・・・だよな?」
見知らぬ街、見知らぬ小学校を目の前にオレは汗をかきながら立ち尽くす。
お祭りから次の日、森くんからラインがあった。ご丁寧に地図まで貼り付けて会う約束をしたんだけど・・・。
閑静な住宅街の中にこじんまりとたたずむ小学校の前で待ち合わせって、ここからどこか行くのだろうか。
真夏真っ盛りの外は暑すぎる。日差しをさえぎるものがなく容赦なく日光を浴びまくる。
「暑い」
流れてくる汗を拭っていると正門が開き中から森くんが出てきた。
「森! なんで小学校から?!」
「暑いのにサンキュ。ま、入って」
「え?」
よく見るとTシャツに短パンと私服にしては動きやすそうな格好をしている。
「・・・もしかして、小学校でバスケの練習? とか」
森くんのあとをついて行きながら探りをいれる。
「当たり」
ニヤッと口元だけで笑う森くん。
昨日はあのあとオレの頭がキャパ越えで整理したいと言って逃げるように帰ってしまった。
もう完全に失恋したと思いこんでたし、ふたりはつきあってるんだと思いまくってたからとにかくそこの暗示を解くのに苦労した。
つまり、オレはまだ振られていない!
そして、森くんは小倉さんの告白を断った!
それはようやく受け入れることができたけど、
『もうすでに意識してるんですけど?』
それは一体・・・?
森くんの言葉を思い出すと途端に頭の中がフリーズする。
考えようとすると動悸息切れが・・・!
「立川?」
「え、あ、ごめん! 何?」
慌てて前を向くと体育館の前に来ていた。
「ここ、オレが通ってた小学校の体育館」
そう言って森くんは体育館の入り口へ入ると下駄箱に靴を入れるよう指示する。
言われるがまま靴を下駄箱に入れ、森くんが用意してくれたスリッパに履き替えて重いドアを引くと中で小学生たちがバスケの練習をしていた。
立ち尽くすオレに森くんが、
「今、あいつらたちのコーチやってんの」
「・・・え? コーチ?!」
「俺が小学生の時に入ってたバスケクラブなんだけど、その監督が夏休みだけコーチのバイトしないかって誘ってきたから引き受けた」
「・・・バイトってこれだったんだ」
「・・・うん。人に教えるくらいだったらあんま肩に負担ないと思って」
「あ、だから接骨院行ってたんだ」
「まー、行く回数は増やしてたかも。メンテ大事だし。教えるだけ教えて手本ないって説得力ないじゃん」
「さすがバスケバカ」
「・・・うるさい」
森くんが扇風機の前にパイプ椅子を用意してくれた。
「終わるまでここで見学してて」
「何か手伝う?」
「いい。顔面にボール受け止める方法は教えてないんで」
「おい」
クックッと笑いながら森くんが小学生たちの輪に入って行った。
小一時間ほどして練習が終わり小学生が帰った。
「悪い、モップかけるからもうちょい待って」
「オレも手伝うよ」
準備倉庫からモップを取り出し、森くんと並んではじっこから縦にモップをかけていく。
「森すげーじゃん。マジでコーチに見えた。小学生も真剣にやってたし」
「そりゃークラブと言ってもそれなりにレベル高い奴らだし、小6が何人かいるけどオレが通ってた中学校受験する奴もいるし」
「ほー」
「・・・なんだよ」
「いやー、スポーツ大会の練習でも思ったけど、森って人に教えるの上手いよ。案外コーチ向いてるかもよ?」
ニッと笑いかけたら森くんが照れた。
「それはどーも」
森くんてマジでバスケ好きだなー。
照れ顔初めて見たけどかわいい。
ついつい顔がにやけそうなのをこらえていると、
「コーチのバイト、受けようと思ったの立川のおかげだから」
「え? オレ何も相談されてませんけど?」
「・・・立川が言ったんだろ。続けられるって。プレーヤーは無理でも関連する仕事なら探せばあるって。立川が言ってくれたから俺・・・もう一度バスケやろうって思えた」
「・・・森・・・」
その場で立ち止まって森くんと見つめ合う。
「・・・ておい、あの時寝てたんじゃねーの?! 寝てたよな?!」
「・・・」
スッと視線をそらす森くん。
「え?! まさかたぬき寝入りしてたの?! マジかよ! オレめっちゃあの時真剣に話したのにぃ!」
「・・・恥ずいこと言ってんなーって」
「マジかよー」
ショックとばかりにモップがけを再開するオレ。
「なんだよ、ちゃんと聞いてたんだからいいだろ」
「狸寝入りしてた奴に言われたくない」
不機嫌なオレにあとから追いかけてきた森くんがモップをぴったりと横につける。
「コーチのバイトも今は楽しくて。立川に見せたかったから今日呼んだ。嫌だった?」
上目遣いで言われ、心臓が飛び跳ねる。
「い、嫌じゃないけど。お、オレじゃなくてこーゆうのは小倉さんを呼んだ方が喜ぶんじゃね? 小倉さんの方が森のバスケ姿・・・」
「おい、いい加減にしろよ」
グイッと突然森くんに胸ぐらをつかまれドスの効いた声と攻撃的なネコ目に睨まれる。
ヤンキー疑惑再びー!!
「なんでここで小倉さんの名前出すんだよ。俺は立川に見せたかったって言ってるだろ! 昨日言ったこともう忘れた?」
「・・・わ、忘れて、ません」
森くんに胸ぐらをつかまれたことでオレに肘鉄を食らわした男子を思い出し、なるほどこれはビビると納得。
今の森くんは金髪がよく似合う。
「人の話聞いてる?」
つかむ手に一層力を入れる森くん。
「聞いてる聞いてる。ごめん、ちゃんとオレが言ったこと覚えててくれて嬉しいよ。あと、森が楽しそうに小学生に教えてるの見れてよかった。呼んでくれてありがとう」
「・・・うん」
パッと手を放す森くんに内心ホッとする。
「森がバスケしてるところ見ててやっぱすげーなって。入学式の時森のこと見つけてかっこいいって思った時のこと思い出した。これで2回目! 森のことかっこいいって思ったの」
自分で言ってハッとする。
頭を撫でられたのがきっかけとばかり思ってたけど、実は最初から惹かれてたんだ。
あの時から、オレにとって森くんは特別だったんだ。
自覚したら急に恥ずかしくなってきて顔が熱くなる。
「も、モップがけ早く終わらせよう!」
ごまかすように笑ってモップがけを再開しようとしたら森くんがオレのモップをつかんだ。
「立川、付き合お」
唐突な発言に目が点になる。
「・・・え?」
「立川、自覚ないみたいだけどそーゆーところだって。狸寝入りしたくなるの。他にもいろいろ恥ずいからスルーしたことあるし」
「・・・え?! いろいろって?! そーゆーところってどこ?!」
「かっこいいとか・・・よく恥ずかしくないなーって思えること平気で言うところ。自覚ないから立ち悪いけどな!」
最後の言葉には棘があった。
「そう言われても・・・」
思ったことを言っただけなのにと頭にはてなが浮かぶ。
「もう付き合うでいいよな? どうせ両想いなんだし」
「・・・え・・・今なんて?」
「どうせ両想いなんだし」
両想い。
フリーズするオレを置いて森くんはモップがけを再開した。
モップがけが終わり、森くんは体育館のカギを返しに職員室に行った。
オレはというと、体育館の下駄箱で靴に履き替えて森くんを待っていた。
「さっきの本当かな。あんま実感ないんだけど。だいたい森がいつオレを好きに?!」
付き合おうと言われ、信じられないオレはさっきからいろんなことを考えては頭を抱えていた。
「お待たせ。帰ろ」
ガチャッとドアが開き森が現れる。
「お、おー」
声が裏返る。
恥ず。
「どっか寄ってく? お腹すかねー?」
私服に着替えた森くんはさっきまで着ていたTシャツなどをスポーツバックに押し込む。
さっきからすごい普通な森くんに納得がいかない。
「あ、あのさ、付き合おうってさっき言ってたけど本当に? 両想いとか言うけどオレいまいちピンとこないっていうか。オレに気を遣ってる? そもそも付き合うって友達の延長とかじゃなくて、オレたち男同士でもこ、恋人になったらあれこれしたり・・・」
小倉さんに借りた漫画を思い出してついつい口が滑る。
「あ! いやいやいや、オレがしたいとかじゃなくて付き合うの基本的な意味を・・・! いや、したくないと言ったら嘘になるけど、いやいや、そうじゃなくて!」
きょとんとする森くんに対してどんどんテンパるオレ。
最悪だ!
オレ、何言ってるんだ?!
「ごめん、忘れて」
しゅんとうつむく。
「わかってるよ」
「え?」
森に言われ、顔を上げると頬に生暖かい柔らかいものが。
「・・・え・・・」
当たったところを手でおさえながら目を点にするオレに、森くんは、
「もう意識してるって言ったろ。立川のこと好きってこと」
いいからなんか食いに行こうぜ。と外に出ようとする森くんの肩をつかむ。
「い、今のキス?! 森くんて経験者?! (バスケ一筋かと思ってた)」
「・・・」
固まる森くんを見ると、耳まで真っ赤なのに気づく。
「・・・なわけないだろ」
「・・・ですよね」
カーッとオレまで顔が熱くなって照れる。
「・・・お腹すいた」
「・・・うん」
どうやら本当にオレと森くんは両想いみたいだ。
とりあえず、ハンバーガー食いながらいつ好きになったか聞いてみようと思う。
あとで小倉さんに報告したら、カップルで推せると言われた。
おわり。
この恋は無駄じゃない たっぷりチョコ @tappurityoko15
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