第36話「夏祭り」1/2
失恋したんだと実感が沸くとキレイごとな考えはどこへやら。
「だーかーらー前話したじゃん。立川に肘鉄食らわした奴のこと」
「・・・近い」
エアコンが効く涼しいオレの部屋に夏木が数日ぶりに遊びにきた。
思い出したと言ってやたらとオレに顔を近づけてくる夏木に露骨に嫌な顔をしてやった。
「あ、悪い悪い」
ヘラヘラ笑いながらオレから距離をとる。
「バイトは?」
「今日は休み。マックのバイトなんけどさー毎日ポテトばっか揚げてオレ油臭いかも」
そう言って夏木が自分の腕をスンスン嗅ぎだす。
「立川も嗅ぐ?」
「なんでだよ」
「あ、そうだ! 話それた。その肘鉄食らわした奴がさー立川が担架で保健室に運ばれて行った直後に『ダッサ、イケてんのは顔だけかよー』みたいなこと言ってニヤニヤしだしてさ」
「・・・それくらいで森が怒ったの?」
顔での嫌味なんてよく言われる。
慣れっこだ。
「その次だよ、ひでーのは。あいつ、気づかないふりしてたんだ」
「え? どいうこと?」
「だーかーらー、立川がボーッと突っ立てるの知ってたんだよ。知っててよけれるのにしないで衝突! 肘鉄食らわしたんだよ。しかも、立川が倒れるくらい強めにやったって。友達に笑いながら話しててさ。いい気味とか言ってたんだ」
その時のことを思い出したのか夏木が不機嫌そうにしかめっ面だ。
「え? オレしてやられたってこと?」
うん、とこくりと頷く夏木。
「え! じゃー結局事故じゃなくて故意?!」
うんうんと夏木が深く頷く。
「えー---!」
「俺たちのクラスメイトで聞こえてた奴もいたから先生に言いつけようとしたんだよ。そしたら森がそいつのむなぐらを急につかんで『ぶっ潰す』て。ドス効かせながら」
「・・・不良疑惑再び」
オレが森くんを怒らせた時のことを思い出して容易に想像ができる。
「暴力はーって思ったんだけど、乱闘じゃなくて試合でマジでぶっ潰してくれたから俺らもスッキリしちゃったんだよなー。しかも、優勝まで導いてくれるし。マジヒーロー。怖いけど」
「・・・そんなことがあったんだ」
「立川もある意味すげー奴に好かれたよな」
はははとからかう夏木にツキッと胸が痛む。
「あーうん、良い友達持った。二学期入ったら改めてお礼する」
「・・・それなんだけどさー、森って本当に立川のこと友達だと思ってるのかなー。案外、ラブ的な?」
茶化してくる夏木を上目遣いで睨めつけて、
「オレだって友達に怪我させたらそれくらい怒るよ」
「え、マジで? 俺でも?」
一瞬躊躇したけどそこは「うん」と言っておこう。
首を縦にふって頷くオレに夏木は満面の笑みを浮かべ、
「さすが俺の心の友!」
「え? ジャイアン?」
まぁいいか。話がそれたし、夏木も嬉しそうだ。
複雑な気持ちになる。
森くんはオレのこと友達だと思ってそこまで怒ってくれるのは正直嬉しい。
だけど、友達だから・・・。
きっと、オレの気持ちを知ってたらそこまで怒ってなかったかもしれない。(変な期待させるだけだし)
失恋したあとだからやたら傷口に染みる。
「あれ、お祭り行くんじゃなかったっけ? 行くって言ってたよな? 明日だぜ」
「・・・その日、タツ兄と出かけることになって断った」
「・・・へー。てか、タツ兄さん大会で準優勝だろ? すげーじゃん」
「うん、観に行ったけどマジキレてた」
「うわー俺も見たかった! つーかタツ兄さんの鬼瓦とか見てみたい!」
「タツ兄は鬼瓦ってあんま出なくて」
「ていうか、立川、なんか前と違くない? なんか引き締まってるていうか」
また近づいてオレをじっと見てくる。
「大会行ってからタツ兄と鍛えてる。でも、まだ一週間もやってないからそんなわかんないと思うけど」
「いや! わかる! 俺わかる! そんな成果出るんなら立川んち通って俺も鍛えようかなー」
Tシャツをめくって自分のお腹をさする夏木にオレも横からじっと見る。
「確かに鍛えた方がいいかも」
「マジか」
今にも地下室のジムに飛んで行きそうな夏木の前にネネがいつもの登場の仕方で現れた。
「じゃーん! 夏木くんの分までお土産買ってきてあげたよー! 偉いでしょ」
「マジでー! サンキュー! つーかコンサートの話聞かせて~」
ネネと一緒に部屋を出て行ったことにやれやれと一息つく。
スマホを開くと小倉さんからラインが来ていた。
『明日のお祭り、夕方の六時に集合でいい?』
『ごめん、急用できちゃって。二人で楽しんできて』ポチッと返信をしてボスッとベッドに顔をうずめる。
森くんと小倉さんに会うのはキツイ。
失恋してからまだ気持ちが全然切り替われていない。
それに、お祭りの時に森くんに返事をされるんじゃないかと思うとどう振舞えばいいか怖くて会いたくない自分がいる。
あきらめるし、ふたりを応援したい気持ちもある。
だけど、それはすぐには無理。
せめて二学期までは傷心にひたらせてほしい。
「意気地なしのオレでごめん」
チャーハンを食べたあと、タツ兄に『おまえがそこまで夢中になれるものがあったとはな!』て言われて気づいた。
ハマれるのがないって思ってたけど、こんなめちゃくちゃへこむくらい森くんに夢中になってたんだって。
「恥ずい」
改めて気づくとめちゃくちゃ恥ずい。
恥ずいけど嬉しい。
けど、めちゃくちゃ辛い。
二学期までこの辛さから復活できるんだろうか。
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