第33話「告るから、オレを意識して?」
テスト休みが終わり、終業式のためだけに学校に登校した。
眼帯なしの登校は久しぶりで自分でもソワソワしたけど、クラスのみんなは新鮮とばかりにひっきりなしに声をかけてきた。
「今日も朝から立川はみんなにモテモテですなー」
蒸し暑い体育館の中で終業式が行われる中、オレの前に立つ夏木が教師の目を盗んで話しかける。
「眼帯外したからだろ。現に治ってよかったねーってみんなに言われたし」
「オレも眼帯しようかな。そしたらモテる?」
「・・・かもね」
「絶対嘘だ!」
「シッ、声大きい」
列の隙間から校長先生の話を聞いてる教師の列に視線を向ける。特に気づかれてないみたいだ。
ホッと胸を撫でおろしていると夏木は悪い悪いと言いながら顔だけで笑った。
終業式が終わりクラスごとに教室へと向かう。
人混みの中、森くんの後ろ姿を見つけると途端に緊張で心拍数が上がる。
テスト休み中に森くんに告るって決めてから何をどう言おうかどこで言おうかそんなことばかり考えていた。その後のことも・・・。
不安と緊張で心臓が口から出てきそうだ。
廊下を歩いていると後ろから来た人にど突かれ前によろめく。
「うわ」
「立川、大丈夫か? おい、混んでるんだから割り込んでくるなよ」
夏木の声にど突いてきた奴が振り返るなり、オレの顔を見て急に「ひぃ」と小さい悲鳴を上げた。
え? ビビられた?
「わ、悪い! 悪気があったわけじゃないんだ。マジ勘弁!」
ひぃ~と悲鳴を上げたまま走って行ってしまった。
「え・・・オレ何かした?」
されたのはオレなんだけど、と呆気に取られていると前方にいる森くんと目が合った。
オレと目が合うなりフィッと視線をそらしてそのまま行ってしまった。
今の見てた?
「立川、あいつだよ。お前に肘鉄食らわしたの」
「え? スポーツ大会の時の?!」
「おぅ。俺覚えてるぜ」と夏木。なぜかドヤ顔。
「あの時のこと一瞬すぎて相手が誰だか全然覚えてない。でも、なんでビビられるんだろう。むしろオレがあの時は悪かったのに。ボーッとしてて周りのことちゃんと見てなかったから」
それが森くんのことで頭がいっぱいだなんて夏木には言えない。
「そりゃーあのあと森があいつのことボコボコにしたからだろ」
「本当にボコボコにしたわけじゃないだろ。プレーの仕方がえげつなかっただけで。森から聞いたけど、森は森でちょっと過去のこと思い出したっていうか、悪気があったわけじゃないんだ。森にもいろいろとあるっていうか・・・」
「何わけわかんないこと言ってるだよ、確かに試合中にボーッとしてた立川が悪いけど、あいつも十分最低だぜ。森がキレるのもわかる」
「え、どういうこと?」
「森がキレたのは立川のためだよってあれ? この話知らない?」
「・・・オレのため?」
初耳とばかりに目が点になっていると、後ろから担任の教師が早く教室に戻れとせかされ夏木と話してる余裕がなくなった。
夏木の話は気になるけど、とりあえず今日は頭のすみっこにでも置いておくことにした。
ホームルームが終わり、帰宅時間になると友達とおしゃべりしている小倉さんに声をかけて渡り廊下へと場所を移動する。
「明日から夏休みだね」
ニコッと微笑む小倉さんとは違い、オレの笑顔は引きつっていた。
「あのさ、小倉さん」
「うん、どうしたの立川くん」
オレの緊張に気づいたのか、小倉さんもこわばった表情になる。
「オレ・・・森に告ろうと思う」
「え・・・!」
「付き合うとかじゃなくて、オレの気持ち知ってほしいんだ。というか、オレの場合、そこからだと思って」
「そ・・・か。うん、頑張って!」
ニコッと小倉さんが応援してくれる。
「うん・・・ありがとう」
ライバルに応援されるってなんか心強い。
小倉さんと別れてすぐに下駄箱へと向かう。
実はホームールーム中に森くんにラインで放課後待っててもらうようお願いしていた。
靴に履き替えながら森くんにラインをすると、
『今、学校すぐ近くの公園にいる』と返ってきたから暑いのに走って公園に向かった。
緊張してるのに早く森くんに会いたい気持ちが抑えられない。
公園に着くと森くんは入口のすぐ近くのベンチに座って待っていた。
オレに気づくなり立ち上がって、
「別に走ってこなくても・・・クソ暑いのに」
「な、なんとなく?」
はぁはぁと息切れしながら森くんの前で立ち止まる。
汗で背中がビショビショだ。ワイシャツをはためかせて空気を送るけど暑い。
これで熱中症になったらアホだ。
「で、なんか用? 一緒に帰るとか? これから接骨院予約してるから無理なんだけど」
「・・・森に、言いたいことあって」
「言いたいこと?」
きょとんとする森。オレはまだ汗が引かないまま緊張がピークに達してちょっと気持ちが悪くなってきた。が、明日から夏休みだし、もう今日しかない。
頑張れ、オレ。
「森・・・期末テスト結果どうだった? 赤点まぬがれた?」
出た言葉がこれ。自分でも拍子抜けする。
心なしか森くんの顔も戸惑っている?
「あ、あぁ。社会以外90点以上。一学期の成績はほぼAだった」
「え、マジで?! 森ってそんなに頭よかったの?! いつも勉強の時できなそうなこと言うから」
「みくびんなよ。バスケばっかやってたって、オレが通ってた中学進学校だぞ?」
「そういえばそうでした」
確か、中高一貫男子校だった。でも、進学校は初耳だ。
苦手な社会でも赤点じゃないって・・・一緒に勉強会なんてしなくてもいいじゃん! むしろ今度教えてもらおう。
「立川は?」
「オレも赤点ない」
「成績は?」
「AとB半々ってとこ?」
「オレの勝ち」
ニヤッと口元で笑う森くん。なんかムカつく。
でも雑談したおかげで緊張が少し解けた。
「森・・・お、オレ・・・」
「ん?」
森と見つめあうけど、言葉がうまく出てこなくてチラッと視線をそらす。
「森のこと今でも堂々としてて憧れてるし、バスケバカって思ってるけどひとつのことにまっすぐ向き合えるのってすげーって尊敬してるし、友達になれてよかったって思ってる」
「う、うん。急になに?」
褒められて少し照れる森くんが視線を外したところで、次はオレが森くんに視線を戻し、
「友達だと思ってたけど違ってた。いや、友達だけど・・・好きなんだ、恋愛的に」
「・・・は?」
視線をそらしていた森くんと目が合う。
「恋愛的とか言ってもつ、付き合いたいとかそうゆうのを今はまだ望んでなくて、オレの気持ち知っておいてほしくて。意識してほしかったから伝えた。あ、言っとくけど友達として裏切りとかそういうんじゃないから! 絶対!」
お互いなんとなく目が合わなくなって沈黙が数秒流れる。
「・・・わ、わかっ・・・」
森くんが言いかけたところで突然、
「ま、待ってー!!」
小倉さんの大きい声にオレと森くんは弾けるように声のする方へと振り返る。
オレと同じで息を切らして走ってきた小倉さんがオレたちの前で立ち止まり、まっすぐ森くんを見つめ、
「わ、私も! 私も森くんをバスケの試合で見つけた時からずっと好きでした! 私とお、お付き合いしてください! よろしくお願いします!」
ペコッと頭を下げながら右手を出して握手を求める小倉さん。
え、えー-----------------!!!!
小倉さんも告るなんて聞いてないよぉー!
動揺するオレと同じで、森くんもびっくりした顔のまま固まっている。
これってオレも握手求めた方がいい? いやいやいやオレは告ったけど付き合うとは言ってないし!
「・・・えーと、考える時間、ください」
と森くん。チラッとオレを見て、「立川も」と付け加えた。
顔を上げる小倉さんは顔を真っ赤にしながら何度も頷いた。
「えーと、じゃ、オレ、接骨院予約してるから」
気まずいながらも「じゃぁ」と言って森くんは先に公園を出て行った。
オレと小倉さんだけが残され居たたまれない空気が流れる。
何か言おうと言葉を探していると小倉さんが振り返るなり両手を合わせ、
「ごめんね、本当にごめんね、立川くん!」
「・・・え」
「応援してるのは本当だよ! でも、立川くんから告るって聞いて勇気を貰っちゃって、私も伝えたくなったの。でも、立川くんの邪魔しちゃった形になって本当にごめんね!」
「あー・・・うん」
拝みまくる小倉さんに苦笑いしか出てこない。
確かにちょっと邪魔された感はある。だけど、なんだかこれが小倉さんなのかなと思ってしまえば納得しちゃう自分がいる。
いや、オレが損体質なのかもしれない。
ダメだ、弱気になってる。
小倉さんの告白の方がはるかにかっこいい。オレのなんかすげーグダグダだった気がする。
森くんも小倉さんに圧倒されてたし。「立川も」てついでっぽい返事されたし。
「立川くん? やっぱり怒ってる?」
恐々とオレを見つめる小倉さん。
「そ、そんなことないよ! 小倉さんもすげーじゃん! なんかかっこよかった!」
「そ、そそんなことないよ~」
「お互い告ったわけだし、結果はどうであれこれからもよろしく」
「も、もちろん! 私も立川くんとはずっと友達でいたいと思ってるの」
「夏休みにお祭りだよね! その時は告白のことは置いといて3人で楽しもう!」
「もちろん!」
テンション高めに小倉さんと笑顔で交わす。
「オレ電車だけど小倉さんはチャリだよね?」
「そうなの。学校に戻らないと」
「じゃーまた、ラインで。気をつけて帰ってね」
「立川くんも」
学校に戻る小倉さんに手を振り続け、背中を向けたところでどっとため息が漏れる。
告ったのに何だろうこの失望感。
オレ、やらかした? 焦りすぎ?
いや、途中まではよかった気がする。
やっぱり小倉さんの登場? 事後報告がよかった?
いや、そういうのじゃなくて、多分、きっと、小倉さんに勝とうと思って告ったのに小倉さんまで目の前で告って・・・。
敗北感? ですか。
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