第13話「練習開始」3/3
クラスの練習が終わり、いつものようにそのまま中庭で練習をする。
今日は夏木が野球の練習に参加してるから完全にオレひとり。
なんだかんだいって夏木って優しいよな。森くんが来ないからって自主練つきあってくれたり。
ドリブルしながら移動式のゴールに向かってボールを投げる。が、かすりもせずゴールの反対側へと行く。
ボールを取りに行き、戻ってくると校舎への出入り口の前に森くんが立っていた。
金髪に衣替えをした半袖のワイシャツは夏らしくて爽やかだ。
今日はまだ曇り空だけど、森くんの周りだけは爽やかな風が吹いてるように見える。
ティシャツにジャージのズボン姿のオレとは違い、制服姿の森くんはあきらかにバスケの練習をする気ゼロ。
「え? 森くんどうしたの?」
とぼけるオレに、森くんは呆れた顔をする。
「立川が言ったんだろ。バスケ教えろって」
「え?」
「気が変わったから教えてやる」
心なしかあごを上げ、偉そうな態度をとる森くん。
ついに幻覚が見えるようになったのかと、頬をつねるけど、
「痛い。え? マジで?!」
「ボール貸して。パスするから受け取ったらすぐ俺に回して。それを繰り返したらシュート。わかった?」
「え? あ、うん!」
突然すぎて思考回路が回らないオレとは違い、森くんは制服のままボールを受け取ると、ドリブルをしながら走り出す。
慌てて森くんを追いかける。
速い!
動画で観ていたから知ってるけど、実際の森くんのスピードは速くて追いかけるのに必死だ。
「立川」
名前を呼ばれたと思ったら、顔面にボールが直撃。
「は?!」
森くんの驚いた声。
オレの意識がぷつりと消えた。
天井がぼんやり見えてきた。
ここはどこだろう? と目だけを動かして辺りを探る。
オレ、どうしたんだっけ?
確か・・・やっと森くんが中庭に来てくれて、バスケの練習を・・・。
意識が飛ぶ前の記憶を思い出し、勢いよくその場で起き上がる。
「森くん!!」
「何?」
「え?」
椅子に座ったままの森くんがこっちを見ている。
「顔大丈夫か? 鼻の頭赤くなってるけど」
「え?」
そう言われてみれば、顔のいたるところがズキズキと痛む。
片方の鼻の穴にはティッシュが詰められている。取ってみると鼻血がついていて、心なしか喉の奥に鉄の味がする。
「ゔ」と声が漏れる。後頭部がズキズキと痛む。
それを見て森くんは勝手に冷蔵庫を開けて保冷剤を取ってオレに差し出した。
「見回り担当の先生にはちゃんと許可取ってるから使って」
「・・・ありがとう」
受け取った保冷剤で後頭部を冷やすと痛みが冷たさで拡散される。
よく見るとここは保健室だ。
オレが今いる場所はベッドの上。
保険の先生はいないみたいだ。壁に掛けてある時計を見ると6時半を回っている。
「オレ、どうやってここに?」
ボールを顔面でキャッチしてから記憶がまったくない。
「見回り担当の先生と、立川とよく一緒にいる・・・」
「夏木? ちょっとチャラっぽい感じの」
「多分そいつ。と、一応オレの3人で。保健室が1階にあってよかった」
「うわーマジ感謝。ありがとう」
「夏木って奴にもお礼言った方がいい。もともと立川に用があって来たみたいだけど」
「マジそうする! 夏木あとでラインする!」
ここにはいない夏木に向かって・・・。
「・・・ごめん」
「え?」
すまなそうな顔をする森くん。
「・・・バスケ部の時の感覚でプレーした。まさか顔面に当たるとは・・・」
「いやいやいや、気にしないで! ちゃんと取れなかったオレのせいなんだから」
「・・・小倉さんが毎日自主練してるって言ってたから・・・まさか、下手くそ・・・下手だったとは」
しまいには口を手で塞いでうつむく森くん。
なんか様子が変だ。
肩がフルフルと震えだし、
「森くん?」
「いかにも運動できそうなの、に・・・もー限界」
腹を抱えて笑い出す森くん。
きょとんとするオレにお構いなく、爆笑。
「・・・そんなに笑える?」
森くんは涙を拭いながら、
「ご、ごめん。なんかギャップがツボッた。マジごめん」
「ゔー。言っとくけど運動はそれなりにできるから! バスケは授業くらいしかやってないだけで。つーか、森くん経験者じゃん! あんなスピードのボール無理だから!」
思い出してゾッとする。
夏木と練習していた時のパスとは大違い! 気づいたら顔面目の前にきていた。
めちゃくちゃ速い。
「正直、あんなボール一生取れる気がしない」
「ちゃんと加減する」
「それって、スポーツ大会参加してくれるってこと?!」
オレの反応に真顔になる森くん。
「・・・小倉さんが肩の怪我について話したって。もう、バスケ部の時のようなプレーはできない。期待には応えられない・・・それでもいいのか?」
「いやいやいや十分だって! オレ、森くんがバスケ部だったから誘ったんじゃない。一緒にバスケやりたいから誘っただけ。だから、そんなプレッシャー感じなくていいから!」
「・・・」
「もしまだ肩が痛いとかなら、オレとコンビ組もう! オレのフォローしてよ」
明るく振舞うオレに、きょとんとしていた森くんがブッと吹き出した。
「た、立川とコンビ?」
クックッとまた笑いだす。
マジ、失礼!
頬を膨らませ、
「友達のためにと思って考えたのに」
「ん?」
「え?」
「・・・俺たち友達?」
「・・・え? 違うの?」
「ん?」
「え?! そう思ってたのオレだけ?! マジで?! 勘違い?! 恥っず!!」
うわーマジかよーと叫びながらベッドに寝転がる。
なんとなくそんな気はしてたけど、マジでオレの勘違いだったとは・・・。
膝を抱えながらへこむ。
「小倉さんと3人で勉強会したじゃん。一緒に駅まで帰ったし」
ブツブツ言うオレ。
よく考えたらこれくらいで友達認定してもらったと思うオレって単純すぎる。
「俺がひとりでいるから話しかけてくれてるんだと思ってた」
「え?」
「立川って放っておけない性格だって。クラスの奴ら言ってたの聞こえて」
「そ、それは・・・! そうゆうこともあるけど。森くんは違うから!」
ガバッと起き上がる。
「それに、じーと見られてる気がして」
「え!」
「この髪だから、悪目立ちして嫌われてるんだとばかり」
「誤解だから! 確かにじーっと見てた時もあったけど、それは話すきっかけを探してたからで! 嫌うどころか、オレ、森くんのこと入学式の頃から堂々としててかっこいいなーて。憧れてた」
「・・・憧れ」
きょとんとする森くん。どうやら予想してなかった展開に思考回路が追いついてないみたいだ。
オレも、こんなこと本人に言うなんて・・・すげー恥ずい。
「オレなんかさ、人に流されてばっかで言いたいことも言えないし。すぐ周りの空気読んで合わせちゃうし。情けないよな」
あはははと笑って恥ずかしい気持ちをごまかす。
「あ、言っとくけど、今も憧れてるっていうか、バスケもすげー上手いし、森くんて本当すごいなって思ってる」
「・・・別にすごくない」
何か考えるように視線をそらした。
「森くん?」
「じゃー改めて、今日から友達ってことで。よろしく」
ニッと口角を上げて笑った。
「うん、よろしく」
オレも笑う。なんだか和やかな空気になる。
切り替えるように森くんの表情が急に引き締まった。
「スポーツ大会まであと1週間もない・・・か。コンビと言っても立川のバスケレベルが~」
チラッとオレに視線を送る。
残念混じりな視線が痛い。
「練習! めっちゃ練習するから」
「俺、けっこう厳しいよ。バスケ部でハードなメニュー叩きこまれてるから」
「うっ」
「なんて冗談。とりあえず基本をマスターしようぜ」
無邪気に笑う森くん。
やっと友達になれた。
ホッとして、後頭部の痛みなんて吹っ飛んだ気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます