第12話「練習開始」2/3


 次の日、

「練習しなくていいから、オレにバスケ教えてくれない?」

「は?」

 登校するなり笑顔で森くんにお願いしてみる。

 題して、『バスケがしたくてうずうずしたくなるシチュエーションを作る!』と言っても、思いつかなかったからとりあえず教えてもらいつつ、バスケがやりたくなる気持ちにさせる・・・というオレなりのアイディア。

「やだ」の一言で森くんは去って行った。

「クラスの練習のあと、そのまま中庭で自主練してるから気が向いたら来てね!」

 森くんの背中に向かって大声で伝える。

 反応がないのはもう慣れた。

 

 慣れたけど、地味にへこむ。


 


 呼びかけて一週間。

 森くんは来てくれるどころか、遅刻するようになった。

 オレに声をかけられるのがうざくなったのだろうか。

 ネガティブになる心を、頬を叩いて喝を入れる。


「立川くんどうしたの?! 急に顔なんて叩いて」

 びっくりする小倉さんが校舎から出て来た。

 変なところを見られて苦笑いを浮かべる。

「あ、いや、気にしないで! なんでもないから」

「森くん待ってるの? いつもクラスの練習のあとに自主練してるって言ってたけど中庭でしてたんだね」

「あーうん。梅雨入りしたじゃん? 中庭は屋根があるから雨関係なく練習できるし」

「今も雨降ってるよ。もう7時になるから帰った方がいいと思う。森くんまだいるか下駄箱見てくるね」


 確かに外はもう真っ暗だ。

 中庭は屋根もあるし外灯もある。屋根はプラスチックのような透明な素材でできていて見上げると空が暗いし、雨で濡れている。

 見に行こうとする小倉さんに、

「いいよ、小倉さんは気にしないで帰って。多分、森くんもうとっくに帰ってると思う」

「・・・」

「小倉さんはバレーボールの練習の帰り? 小倉さんこそ遅くまでやってるんだね」

「山田さんがすごいやる気で・・・」

 しょんぼりする小倉さん。


 山田さんてスポコンだったんだと意外性に驚いていると、

「立川くんはやっぱり、その、森くんのバスケがみたいから頑張ってるの?」

「それもあるけど、大きなお世話だって森くんに怒られそうだけど、森くんのため」

「森くんのため?」

「小倉さんはそっとしておくのが森くんのためだって思ってるよね? オレは、お節介をするのが森くんのためだと思ってる」

 自分勝手だってわかってる。

 

「・・・立川くん、あのーー」

 何か言いかけたところで、

「おーい、そこのふたり、もう鍵閉めるぞ。早く帰れ」

 廊下の窓から現文の佐渡先生がオレたちに声をかける。

「はーい!」

 手を挙げるオレに、

「あ、立川! お前今日もこんな時間まで残ってるのか!」

 

 ヤバイ、見回り担当でもある佐渡先生に顔を覚えられてしまった。


 苦笑いを浮かべるオレに、佐渡先生は「早く帰れ」と言って窓を閉めて他へ行った。

「立川くん、私、友達と帰るから」

「うん、また明日!」

 校舎の中に消えていく小倉さんの背中を見つめながら、ため息がこぼれる。

「オレも帰ろ」


 スポーツ大会まであと1週間を切ってしまった。

 正直、もうダメだとあきらめかけてる自分がいる。情けないけど。

 でも、森くんを待ちながら自主練してるのはなぜか嫌じゃないから、明日も待つことにする。


 そういえば、小倉さん何か言いかけてたような・・・?


 なんだったんだろうと思いつつ、中庭をあとにする。

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