明日には棺へ入れてくれ

@i10ma

念願

 アスファルトを割る草花。まどろむ猫。鴉の鳴き声。色とりどりの人、人。ぼく。

 どれもがまったくのっぺりと往来に在るけれど、どれもが本当は知っている。行く先は全て同じなのだと。


 ぼくはただそれを、皆と同じ顔で、横に置いておくことが出来なかったのだ。

 どれだけ長く、短く在っても同じであるのなら、満たされていると感じるうちに、すぐにでも辿り着いてしまいたかったのだ。


 足で登るには少しばかり長い螺旋をかんかんと鳴らした先には、やっと開けた空があった。

 田舎とも都会とも呼べないほどの屋根屋根を眺め、深く息を吸って、吐く。

 針金の絡み合った低いゴールテープを越えて、目蓋の裏に、棺で眠る夢を見る。


 今日という日は、ぼくの沈殿していた念願だ。

 平凡に恵まれていて、大きな波もなく、実に良い命だった。これで、空が青ければ、もっとよかったけれど。


 逆さまの頭が、空気の壁を突き抜けていく感覚。

 目を閉じる。

 こうして、ぼくの明日は、やっと消えたのだ。

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