【文披31題】あの夏

藍川澪

Day1 黄昏


「ねえミツキ」

 アヤはボールを手まりのように地面に跳ねさせながら言った。ボンボンとゴムの伸縮する音が響く。まん丸なボールに対して、伸びる影は長い。もうすぐ日が暮れる。

「今年、梅雨って存在したのかな」

「まあ、短かったよね」

 もうすぐ日が暮れるのに、空気は蒸し暑いままだ。直射日光の降り注ぐ真昼よりは幾分か和らいでいるものの、涼しいとはとても言えない。

「これじゃ、今月の暑さが思いやられるよ。学校行きたくないなぁ」

「なんで? クーラーついてるじゃん」

「帰り道が暑いもん」

「たしかに」

 ボン。

 ゴムのボールがアヤのスニーカーの先に当たって、ころころと転がっていった。それを追いかけるアヤの影も、本人の何倍も長く伸びた。

「クーラーつけてくれただけましかぁ。扇風機でしのげって言われてもね」

「倒れるでしょ」

「たぶん先生もね」

 ミツキは枯れたあじさいの植え込みから立ち上がった。半ズボンのお尻についた砂を払う。

「アーヤ。もう帰る時間だよ」

「はあい」

 二人の小さな身体は、影を長く長く伸ばして遠ざかっていく。もうすぐ日が暮れる。

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