私は彼女に謝らないといけないから
久しぶりにドロシーと再会することができて楽しんでいた日々はあっという間に過ぎ去って。また俺は帝国の工房で武器をひたすら作らされていた。以前よりもさらに武器の製造量が増えていて正直気が滅入るものの、逃げ出すわけにもいかないので黙々と腕を動かすしかない。
「……………」
「また、随分と大変そうね」
「……うわっ!?」
作業に集中していたから、いつの間にかセシリアが工房の中に入っていたことに気づかずに俺はつい声をあげて驚いてしまった。せめて一声かけてくれたらよかったのに……。
「び、びっくりした……」
「あら、驚かせてごめんなさい。それにしてもまた随分とたくさんの武器を作っているのね」
「まぁ……ディランからの要求がまた増えてしまったので。戦争が終わらない限り増え続けるんでしょうね」
「ええ、これからももっと増えるわね。ディランはもっと戦争をしたいようだから。これ以上やったところで被害が増えるだけなのに……」
皇帝の娘ということで、戦争のことも俺なんかよりずっと理解しているんだろう。セシリアの沈んだ表情が、余計戦争の悲惨な状況を想像させる。
「誰もディランを止めようとしないんですか?」
「……止めようとしたドロシーがああなったでしょ。だからもう、誰もディランに逆らおうとしないの」
それを聞いて、納得するしかないかった。刃向かったドロシーが奴隷にさせられたのを目の当たりにしてしまったら、そのまま反対の姿勢をとり続けるなんて難しいだろう。かくいう俺だって、ドロシーのことで脅されてこうして武器をあいつのために作り続けている。とことんあいつにいいように扱われているのが現状だ。
「そうだ、手紙はドロシーに渡せた? それとも、断られた?」
「……断られました。帝国の人は信用できないって」
「……それもそうよね。ありがとう、渡そうとしてくれて」
「気にしないでください。また、俺にできることがあればなんでもしますから」
「あら、なんでも?」
「……え?」
俺がなんでもというと、セシリアは何やら目を見開いて俺のことをじーっと見つめ始めた。あれ、なんだか嫌な予感がする。もしかして厄介なお願い事をさせられるんじゃないかこれ。
「じゃあ私をドロシーに会わせて」
……ああ、やっぱり。セシリアをドロシーに会わせたら何が起こるかもわからないってのに、皇帝の娘を外に連れ出すなんて恐ろしいことできるわけがない。でも、「あなたなんでもって言ったわよね?」って言わんばかりに圧をかけてくるセシリアがめちゃくちゃ怖い。まだ子供だってのになんて威厳のある子なんだ……。
「安心して。私は皇帝の娘だけど帝国では力を持った人間じゃない。だから私が1日くらいいなくなったって誰も心配しないわ。今だってこうして勝手に工房に来てるのに、誰も文句を言わないでしょ?」
「で、でも……」
「やっぱり私、ドロシーに謝りたいの。あの時私が彼女を助けられなかったのは、今でも後悔してる。多分ドロシーは、誰も帝国に仲間がいないと思っているんだろうけど、そうじゃないってことも伝えたいの。自分のエゴだってことはわかってる。それでも、このまま何もできないのはイヤなの」
それは心から思っていることなんだって、俺にも伝わってきた。セシリアが本気でドロシーのことを思ってそうしたいんだって。それがドロシーのためになるのかは正直俺にはわからないけど……一か八か、賭けてみるのも悪くない気がした。
「ドロシーに危険が及ぶようなことには?」
「絶対ない。もしディランにバレていちゃもんつけてきたとしても、私が全て責任を負うわ。だから……私を、連れて行って」
「……わかりました」
そこまで言われたら、もう連れて行かないわけにも行かない。これがどんな結果を生み出すのかはわからないけど、せめてドロシーにとって良い方向に傾くことを俺は祈るしかできなかった。
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