ドロシー専用の抱き枕


「だ、大丈夫だよな。俺、臭くないよな?」


 シャワーを浴びた後も、俺は入念に自分の匂いを確認していた。だって、これからドロシーと同じベッドで寝ることになったんだから。万が一俺が臭くてドロシーに不快な思いをさせるわけにはいかないだろ。


 ……ああ、すごく緊張する。同じ部屋で寝るのはもう慣れたものだけど、一緒のベッドで寝るのはまた違うわけで。念のためにもう一回シャワー浴びてこようかな。


「え、エリック……お待たせ」


 俺が自分の体臭を気にしている間に、ドロシーがシャワーを浴び終えたようだった。シャワーを浴びたばかりということもあって艶々しいドロシーは、俺の手をぎゅっと握って、早く一緒に寝ようと懇願する目を向ける。


 うずうずしているドロシーを待たせるわけにもいかないか。二度目のシャワーを浴びることをやめて、俺はその手を握り返してドロシーと一緒に寝室に向かった。


「じゃ、じゃあ……え、エリック。い、一緒に……ここに来て」


 先にドロシーがベッドで横になり、続いて俺もドロシーの隣で横になる。それなりに大きいベッドだからスペースに困ることはないけど、こうやってドロシーがすぐ隣にいるっていうのは……やっぱり、緊張してしまうな。


「ドロシー、大丈夫? ……俺、臭くない?」


「ぜ、全然そんなことないよ。……わ、私こそ、大丈夫?」


「全く問題ない。いや、むしろドロシーはいい香りだと思う……あ」


 ついついドロシーがいい香りだと伝えてしまったけど、ふと正気に戻って自分のキモさに気づいてしまう。ああ……なんでこんなこと言っちゃったんだよ俺。


「……ほ、ほんと? え、エリックは……私の香り、好き?」


 でも、ドロシーはそれが嬉しかったのか恐る恐る確認してきた。


「……う、うん」


「……う、嬉しい。私も……エリックの香り、好き」


「え」


 ぎゅっと俺のことを抱きしめながら、ドロシーは俺にそう言ってくれた。自分の香りを心配してきたけど、ドロシーが好きだって言ってくれたから……心底俺は嬉しくなってしまう。


「……あ、ご、ごめん……急に抱きしめちゃって……」


 衝動的に俺のことを抱きしめてしまったのか、ドロシーはふと我に返って抱きしめるのをやめてしまった。


「気にしないで、もっとしていいよ」


「……ありがとう」


 俺がそういうと、ドロシーはまたぎゅっと俺のことを抱きしめる。なんだか、ドロシーの抱き枕になった気分だ。


「……こ、こうしてエリックを抱きしめてると……すごく落ち着く」


「それは良かった。俺はドロシー専用の抱き枕みたいなものだから、好きなだけ抱きしめてくれ」


「……う、うん!」


 それからドロシーは眠りにつくまで、ずっと俺のことを抱きしめ続けた。そして俺もだんだん眠気が襲ってきて、気づいたら眠りに落ちていた。


 ★★★


「……ん。あ、え、エリック……」


 太陽の光が窓から差し込んできて、私は目を覚ました。いつもなら先に起きているエリックが隣で寝ていたから、いつもより早く起きたのかなって思ったけど、時計を見るにちょっと遅いくらいの時間だった。


 エリック、私が気絶している間に寝る間も惜しんでずっと見守ってくれてたから……その分寝ちゃってるのかも。


 本当に、エリックは優しい。私のために色々としてくれるし、たくさん助けてくれる。……私が今、こんなに幸せでいられるのは、全部エリックのおかげ。


 それに、あの時私を幸せにするって言ってくれたことが本当に嬉しかった。あんなまっすぐな目でそう言ってくれたら……エリックのことを心から信じるに決まっている。


「……エリック」


 眠っているエリックの顔、とっても可愛い。こうやってずっと、エリックと一緒にいられるように、私も頑張らないと……!


「大好き、エリック」


 エリックの頰に軽く口づけをして、眠っているエリックにそう伝えた後。私は彼にたくさん喜んでもらえるように、朝ごはんを作り始めた。


――――――――――

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