素材集めの旅行
「あ、やべ。素材が切れそうだな」
武器を作っている最中、素材がもうすぐ尽きることに気がついた。この量だと注文分の武器は作れないな……仕方ない、鉱山に素材を採取しに行くか。
あ、そうだ。いつも行っている鉱山は日帰りで行ける場所にあるから、ドロシーも誘ってみよう。
「なぁドロシー。これから素材を集めに鉱山まで行くんだけど、一緒に行かないか?」
「わ、私なんか行っても……邪魔になるだけだよ?」
「それは大丈夫。俺、それなりに強いし。それにちゃんと整備されてる鉱山だからさ。あと、鉱山の近くにある街の名物お菓子がめっちゃ美味しいから、ドロシーに食べて欲しいんだ」
「……い、行きたい」
「もちろん!」
そんなわけで、俺たちは二人で一緒に鉱山まで素材を集めにいく、ちょっとした旅行に出かけることになった。こうして二人きりで出かけるなんてガキの頃もしたことがないから、少し緊張してきたな。
「この森を抜けたら街に着くから、そこで一旦休憩しようか」
「う、うん……。ね、ねぇエリック……手、繋いでいい?」
「もちろん。ドロシーのこと見失ったら大変だもんな」
森に入る前、俺たちはまた手をぎゅっと繋いだ。正直、この森は結構人が行き来することもあって危険性はあんまりないんだけど、ドロシーにとって今はいろんなことが不安なんだろうし、俺もドロシーを危険に晒すなんてことはしたくない。だから、こうやって手を繋ぐのは合理的ってわけだ。
……でも、手汗はかかないようにしないと。
「ね、ねぇ……エリック」
「ん、どうしたんだドロシー?」
歩いている途中、ドロシーから話しかけてくれた。一体どうしたんだろう、もしかしてどこか怪我をしてしまったとかか?
「……う、ううん。な、なんでもない」
「遠慮しないで言ってくれていいよ。薬草とかは持ってきてるから、怪我なら言ってくれ」
「け、怪我じゃないよ。そ、その……わ、私の手の感触……い、嫌じゃないかなって思って……。て、手汗とか……かいてないかな?」
ああ、ドロシーも俺と同じことを心配してたんだ。
「全然そんなことないよ。ドロシーの手は綺麗だ」
「……ほ、ほんと?」
「ああ、嘘なんかついたって仕方ないだろ? 俺の方こそ手汗とかかいてない?」
「そ、そんなことない! そ、それに……え、エリックの手……お、大きくて、あったかくて……すごく、落ち着くよ」
「そ、そう……? な、なんかそう言われると照れるな」
この前一緒に寝たときはそんな感想聞けなかったけど、こうしてドロシーから直接褒めてもらえるのはめちゃくちゃ嬉しいな。あ、やばい。自分でも少し気色悪い笑顔しちゃってるってわかる。
「ありがとなドロシー、褒めてくれて。これだけでしばらくなんだって頑張れそうだ」
「そ、そう……? な、なら良かった……エリックの力になれて」
そんなこんなで森の中は抜けて、俺たちは無事鉱山の最寄街、【ローム】まで着いた。ここは武器や防具の素材を集めに来る奴らの拠点として来る奴も多い関係上、いろんな店が栄えている。かくいう俺も、ここにきたら毎回馴染みの店でお菓子を食べては持って帰ってコレットとか村のみんなにおすそ分けしてる。
「結構人がいるから手を繋いだまま行こっか」
「う、うん……」
街の中でも手を繋ぎながら歩いていると、ドロシーの美貌もあってか人の目線を感じる。それにドロシーは少し怯えてしまっているようだったので、俺は馴染みの店までちょっとしたショートカットルートを通って、人目を避けて店に着いた。
「おっさん、来たぞ」
「おおエリック、今日も素材集め……だ、誰だ!? お、お前どうしてそんな美人と手を繋いでいるんだ!?」
ロームでお菓子屋を営んでいるジャックは、俺がドロシーと手を繋いでいることに驚いてしまってつい大きな声を出す。この人は強面で筋肉質な身体に、スキンヘッドでちょび髭を生やしているから、ビジュアルがめちゃくちゃ怖い。だから、驚いた反応をされるとこっちもびっくりする。
「まぁそれは色々あったんだけど……。紹介するよ、婚約者のドロシー」
「……は、初め……まして」
「……こ、婚約者!? お、女っ気ゼロのお前に!? じ、人生何があるかわからないな……」
「そんなことはどうでもいいんだよ。それより、ドロシーにお菓子を食べさせてほしい。ほら、前に頼まれていた酒と調味料」
前にジャックから帝国で酒と調味料を買ってきてくれと頼まれていたので、ついでにそれを渡す。お金を払ってお菓子を買うこともあるが、長い付き合いになっていくにつれ、ジャックのお願いを聞いてお菓子をもらうことの方が増えてきた。今日はこれでドロシーの分のお菓子をもらおう。
「おお、わざわざありがとな。正直話を聞きたいとこだが、お嬢ちゃんを待たせるわけにも行かねぇや。ちょっと待ってろ」
ジャックが店裏に入ってしばらくすると、甘い匂いがしてきた。どうやら焼きあがったみたいだな。
「お待ちどうさま。ほら、クッキーだぜ。エリックの分も余分に焼いちまったから食ってけ」
「おお、ありがとジャック」
出来上がったクッキーをお皿の上に置いて、店の椅子に座っている俺たちのところへジャックが持ってきてくれた。見た目は全然お菓子作りとかと無縁そうだけど、彼が作るお菓子は本当に美味しい。あ、ドロシーも食べたそうにうずうずしてる。
「ドロシー、食べよっか」
「……う、うん」
恐る恐る、パクッとドロシーがクッキーを食べる。
「ど、どうだいお嬢ちゃん……?」
「……お、美味しい……です!」
ドロシーはガキの頃からお菓子が大好きだった。俺がまだお菓子を作れなかったから、すぐに食べさせてあげることができなかったけど、こうしてジャックのお菓子を美味しそうに食べている姿を見ていると、心の底から嬉しくなる。
またあの頃のように一緒にお菓子を食べることができて、本当に良かった……。
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