勇者パーティから追放されたステータスオールFのオレ、実はヤンデレ妹勇者のストッパーだった

ヤンデレ好きさん

第1話 ステータスオールFの男

「お前はこのパーティには必要無い」


 クソ弱いテイマーのオレ、レストは魔王を倒すため、パーティを組んでいる魔道士であるバルアスにそう言われた。


「お前みたいなステータスオールFがなんで勇者様のパーティにいるのか、当初から信じられなかったんだ」

「それは勇者であるオレの妹の感情を制御するのに、オレがいないといけないから」

「それはどうだかな。ルシアはずっと無言だし無感情。お前と話す時だけはあの鉄仮面のような顔が少し緩むことはあるが、それでも表情筋はほとんど動いていない。お前は勇者のご機嫌取りの為に居るだけじゃないのか?」

「違う! 彼女は……」


 あれは表情の変化に乏しいだけだ。ちなみに妹が無表情なのはオレ以外を虫ケラのようにしか見ていないヤンデレだからであり、それはパーティメンバーとて例外でなく、彼女はオレ以外の仲間すらゴミか何かと思っているだろう。

 何も喋らないのは喋ることすら虫唾が走るからであり、野営の最中、テントの中で妹はそう口走っていた。


『お兄ちゃん以外要らない』


「とにかく、もういい加減目障りなんだよ。勇者様のパーティから消えろよ雑魚」


 そしてバルアスはオレを突き飛ばし、地面に倒れたオレを見下して嘲笑う。

 オレは確かにステータスオールFの雑魚であり、ここに関して弁解の余地は無い。そんなオレが精鋭揃いの勇者パーティに入っているのは、ひとえに勇者ルシアを戦力として使い潰さないようにする為だ。

 だがその事をバルアスに伝えたところで意味は無く、彼はただオレを蔑み笑うだけ。

 だから反論はせず、せめてもの抵抗として睨んでやると、バルアスは鼻を鳴らした。


「ふんっ。この俺様に歯向かう気か? Fランクのクズ風情が調子に乗るんじゃねえぞ!」


 バルアスは杖の先端をオレに向け、詠唱を始める。


『ファイアーボール』


 火の玉がオレに向かって飛んでくる。これは攻撃魔法の中でも低級のものだが、バルアスの魔力なら一般兵士の基準でいう上級魔法の範囲と攻撃力を余裕で超えることが出来る。

 しかしオレは無防備のまま、直撃した。

 意識はなんとか保っているものの、体中に火傷を負ってしまっており、体を動かすのがやっとだ。


「ぐあっ!」

「ぎゃははは! 何やってんだバカが! いくらなんでも手を抜きすぎだぜ!」


 高笑いするバルアス。他の仲間たちもオレを指差したり笑ったりしている。

 今、ルシアはテントの中で深い眠りについている。勇者は常に最前線で戦っており、疲労の度合いは他のパーティメンバーとは比べ物にならない。

 故にルシアは夜の時は深く眠るのだ。それは彼女が安心しきっている証でもある。仲違いを見せなくて済むのが不幸中の幸いか。

「さーて、じゃあ次は……」

「待ってください!」


 次の魔法を撃ち込もうとするバルアスを止めたのは、同じパーティメンバーの女騎士ライラだった。

 金髪碧眼の少女であり、腰には剣を帯びている。


「バルアスさん、レストくんは何も悪くありません。全ては私たちが悪いのです。私だって最初は彼の実力を信じていませんでした。でも彼はステータスが低くてもあの魔王にも引けを取らない凶暴な妹さんを制御できる唯一の人なんです!」

「うるさい黙れ。俺はこいつと話してるんだ。部外者は引っ込んでろ」

「嫌です! 私はレストくんと同じパーティメンバーです。だから彼を守る義務があるんです!」

「ほう、言うじゃないか」


 ライラの言葉を聞き、怒り狂うバルアスは彼女にも牙を剥こうとする。そうなる前に、オレはライラの前に身を乗り出した。


「レスト、お前みたいな奴がいるから、勇者様はこんなクズ野郎に頼らざるを得ないんだよ。いい加減分かれよ」

「……」

「おい何とか言ったらどうなんだ?」


 バルアスはオレの胸ぐらを掴み上げる。しかしオレは何も言わず、ただ彼を睨み続ける。


「もういい、死ね」


 バルアスは杖を構えて詠唱を始める。今度は中級魔法の『ライトニング・スパーク』だ。雷属性の攻撃魔法であり、対象の体に電気を流して感電させるという魔法。

 しかしオレは回避行動を取るどころか、抵抗すらしなかった。傷を負っているところに大量の電流が流れ、全身が焼け焦げるような痛みに襲われる。


「ぐああぁぁ!!」

「ぎゃははは!! ざまあみろ雑魚が!」


 大声で笑うバルアスたち。そんな彼らを見て、オレは思った。


「分かった。オレがいることでパーティが不和に陥いると言うなら、オレはこのパーティを抜けよう」

「え?」


 オレの言葉を聞いたライラは唖然とし、バルアスたちはさらに声を上げて嘲笑う。


「ぎゃはは! そうだよそれがいい! 勇者様のパーティから出ろ雑魚が!」

「……それじゃあ、さよなら」


 そしてオレは立ち上がり、その場を後にしようとする。するとライラが慌てて駆け寄り、オレの腕を掴んだ。


「ま、待ってよ! 本当に行っちゃうの!?」

「うん。もう決めたことだから」

「そんな……!」


 悲痛な表情を浮かべて俯く彼女。だがオレの決意は変わらない。

 元々オレは勇者の仲間になりたくてなったわけではない。オレはただ王様に命令されて勇者パーティに入っただけだ。平和のためだと言われ、さらに魔王討伐の要である妹もオレがパーティに入ることで士気を上げていたし、オレ自身も勇者の役に立てるのは嬉しかった。

 だけどそれも、もう終わりだ。

 オレが居なくても妹は多分今まで通り、無慈悲に敵を殺し続けてくれるだろう。これは妹が兄離れをする機会だと思ったし、オレがいなくなるだけでパーティが結束して世界が救えるのなら、オレにとっては本望だ。


「ごめんなさい……」

「どうして君が謝るの?」

「私たちがあなたのことを信じられなかったせいで、あなたを辛い目に遭わせてしまった。それに、あなたがこのパーティから抜けたら、誰がルシアちゃんを守れるの?」

「それは……」


 確かに、妹の暴走を止めることができるのはオレ以外にいない。しかし、いつまでもそんな共依存みたいな関係を続けるのは無理があったし、バルアスにはある意味ではいけなかった感謝しなければならない。


「これは妹が成長する機会でもある。オレがいなくなっても、選ばれた勇者として皆の道を照らす。勇者が個人にいつまでも縋っていたら、民が不安になるばかりだ」


 オレはライラに背を向けながら、そう言い放った。しかし彼女は納得できないのか、オレに向かって叫ぶのだった。

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