第1話「龍之鳥池の雄叫び」

第1話①

 ――さて、今日は「黄金鳥」について話そうか。

 ――鳥じゃないかって?

 ――変化へんげするんだ。何にでもなるさ。ドラゴンや龍というものはね。



            《龍之鳥池に入るべからず》

               《怪物が棲む》

               


 イノシシや鹿、野犬や熊が同じ目的地を目指して行進していた。森を抜けると、動物たちの目的地である広い空間が現れた。

 綺麗な澄んだ水を蓄えた大きな池があって、色々な草花が生息していた。山の奥地にある秘密の楽園のようだった。

 池に到着した動物たちはおもむろに池の周囲に集まる。

 一頭のうり坊が群れから抜け出して、水を飲もうと池のほとりに寄ってきた。

 うり坊が水を飲むと、池に小さな波紋が広がる。


 すると、池の方から大きな波紋が返ってきた。


 集まっていた動物たちが一斉に頭を上げて波紋の中心を見る。

 池の中心……その水面下に、蛇に似た巨大な影が居た。

 あの巨影がこの池、この空間、この土地の主だと動物たちは本能で理解していた。 だから、土地の主の前で不用意に動かず、ただ意向を伺っていた。


 ――己はこの土地に居てよいのか。

 ――己はこの土地で生存してよいのか。


 土地の主からの許可を待つ。

 月が雲間から顔を出して池を照らし出す。月光に巨影の姿をさらけ出される。

 水中に棲む土地の主――白い鱗、蛇に似た身体、黄金色のヒゲを持つ龍――は勢いを付けて、水面に向かって飛び出した。


 大きな水飛沫が上がることはなかった。


 水に水滴を落とした映像の逆再生みたいに、水滴が空中に飛び上がっただけ。

 その小さな水滴が水面に落ちた瞬間、細く長い鳥の足が池に降り立つ。

 黄金色の羽を持つトキのような見た目の巨鳥。その黄金色の羽が月明かりを照り返して巨鳥を輝かせて見せた。

 突如現れた巨鳥に動物たちは逃げ出すことなく、池の中に居た巨影へしたように謙った態度をとっていた。

 動物たちだからこそ本質を見抜いていたのだ。

 この黄金鳥が、あの池の巨影と同じ存在なのだということを。

 黄金鳥は集まった動物たちを一瞥してから、悠然とくちばしを天に向ける。


「――ギギギギーギィー!!」


 冥界の亡者たちが上げる苦痛に苛まれた悲鳴のようなおぞましい啼き声が黄金鳥から発せられた。

 動物たちはそれを聞き、黄金鳥に向かって頭を垂れた。

 それは土地に滞在する許可を得たことへの感謝の姿勢。


 黄金鳥の啼き声は山全体に響き渡って、それを聞いた他の動物たちも次々に池へ集まり始めた。やがてして沢山の動物たちが池のほとりに集まった。普段は天敵同士だったとしても、この場所では大人しくしていた。

 すでに池のどこにも黄金鳥の姿はなく、また水中に巨影も見えなかった。








 地震が辺りを襲う。

 山肌が崩れて、土砂が滑り落ちた。

 全ての災害が収まったとき、池の周りだけが何の被害も受けていなかった。なので、集まっていた動物たちは無事だった。

 動物たちは皆、滅茶苦茶になった森に帰った。これから新しく生きる場所を探しに行くのだ。


 空に、黄金鳥が飛んでいる。

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