第49話

あれから、我々はすぐに王城に移動して報告した。エリザベスは、泣いて喜んでいたわ。


王太子殿下はお悩みを国王陛下達に打ち明けられ、殿下を追い詰めた貴族達は国王陛下が呼び出して釘を刺した。


そもそも、エリザベスと王太子殿下は結婚してまだ半年。お子を急かすなんて馬鹿げている。


国王陛下から今回の件の褒美を与えると言われたわたくしは、全てフレッドにお任せした。


フレッドはハンス王子が来たらすぐに受け入れて保護する事と、わたくし達夫婦が必ず一緒に暮らせるよう魔法契約で縛る事を希望した。


即座にフレッドの希望は叶えられた。これで、わたくし達が離れる事は絶対にない。国王陛下、王妃様、王太子殿下、エリザベスの名が刻まれた契約は国中に告知された。


今回の事は公に出来ないので、戦争を回避した辺境伯夫婦への褒美として魔法契約をしたと伝えられている。あながち嘘ではないから、堂々とお話ししているわ。武勇伝を望まれた場合は、機密に触れるのでって言えばみんな諦めてくれる。フレッドがわたくしを溺愛しているのは有名だし、褒美の内容がおかしいと思う方もおられなかった。


そうそう、結局ハンス王子は傷だらけで亡命して来たわ。何も持っていないハンス王子が逃げても行くところはないと思われていたのか、なんとか逃げ出せたって聞いた。彼は、記録玉を持って民の助命を嘆願した。


それがきっかけとなり、隣国の名は地図から消えた。元々、無茶な国家運営をしていたところに飢饉が起きて、民は食べる事もままならなかった。ハンス王子の訴えを聞いた各国が民衆を支援すると、元気になった民衆は王族への憎しみを募らせ、あっさりと国は倒れた。


飢饉を救ったハンス王子を次の統治者にと望む声もあったが、彼は固辞した。責任は、自分にもあるからってね。


その為、各国で話し合いが行われ国は分割された。辺境に面している一部が友好国になり、我が国の領地も増えた。フレッドが領主になる事になったので、領地が少しだけ増えた。もっとたくさん領地を望んでも構わないと言われたが、これ以上は統治出来ないとフレッドが固辞した。


フレッドの目的は、広い領地やお金ではない。自分の手で守れるのはどこまでだろうと毎日真剣に考えて、結論を出したのだ。


以前よりも国境は安全になった。


民は国が分割される事を嫌がったが、ハンス王子が必死で民を説得したそうだ。彼が言うならと、民衆も国が分かれる事を受け入れた。行き来を自由としたので、家族が会えなくなるような事もない。


彼の行動は、勇気ある告発として伝説となっている。国際会議で必死に民を助けて欲しいと訴えた姿は人々の心を打ち、今では彼を顔だけ王子と呼ぶ人は居ない。王族ではなくなってしまったハンス王子だが、見た目の美しさも相まって以前より人気だ。


だが、彼は以前のように女性と遊ぶ事はなくなった。


エリザベスによると、城の研究者になって恩返しがしたいと必死で学んでおられるそうだ。フレッドが言うには、以前のようにチャラチャラとしたご様子はなく、とても素敵な好青年になっておられるそうだ。


わたくしが隠し持っていたもうひとつの記録玉は、フレッドが保管しているが、使う必要はなさそうだ。


「シャーリーが落ち着いてるし、きっと何か対策を立ててるんだろうとは思ってたけど、まさか2つも用意してたとはね」


「ハンス様が記録玉を持って来て下さったから、必要なかったけどね」


「シャーリーがこの記録玉をすぐ出せば、彼は終わりだった。なんで、彼を救おうと思ったの?」


「……わたくしに、似てたから。過去の自分を救いたかった。単なるエゴよ。しばらく待ってハンス様が亡命して来られなければ、この記録玉を王家に提出するつもりだったわ」


「彼は、変わったよ。すっかり真面目になって、深夜まで勉強してる。怪我も治ったし、元気にしてるそうだ」


「そうなのね。わたくしはお会いしてないから、気になってたのよね。元気になられたなら良かったわ」


「ハンス様に会いたい?」


「お元気ならそれで良いわ。あ、もしかしてお会いしないといけないの? 今ではハンス様は英雄ですものね。辺境伯夫人として交流した方が良いかしら?」


「大丈夫! そんな事しなくて良い! ハンス様を英雄視する声はあるけど、彼は今後は目立つ事をしないよ。平和に国が分割されたら自分の役目は終わりだと姿を隠されている。混乱期には、カリスマのあるリーダーが必要だからな。自分が英雄視されるなんておこがましいって言っておられたけど、王太子殿下が説得して表に立って頂いたんだ。外部の人間に出来る事は限られてるからね。美しい容姿の方が傷だらけで必死に訴えたら、かなり効果的だったよ。正直、オレはあまりハンス様を信用してなかったんだが……失礼だったな」


「今までの事を考えると、すぐには信用出来ないわよね。それはお互い様よ。ハンス様は本来はお優しい方なのでしょうね」


「そうだな。何度かお会いしたが、まるで別人のようだった。穏やかになっておられたし、シャーリーへの発言も無礼だったと謝罪してくれた。今まであんな態度を取っていた事が恥ずかしいと、ずっと謝っておられたよ」

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