辺境伯様は理想の殿方です

第41話【フレッド視点】

「で、また姉さんは寝込んでんのか？」

弟の目が冷たい。分かる。逆の立場ならオレも同じ目をしてると思う。いたたまれなくなり、思わず言い訳を紡いでしまう。

「そうしないと、母上について行くと言いかねなかったからな」

「もうちょっとやり方があるだろ。ちゃんと姉さんを大事にしろよ」

「してる、してるよ！」

シャーリーが嫌がるならしないが、彼女はいつもうっとりとした顔で受け入れてくれる。だからつい、やり過ぎてしまう。

「はぁ……。まぁ姉さんは幸せそうだし良いけどよ。確かに、母上について行かれたら困るしな。母上は本気だ。父上まで連れて行った。あの2人がセットで王城に行くのはいつぶりだ？　今頃、王家は驚いてるだろう。母上が言ってた、予想外の事が起きた時、人の本性が出るってよ」

「そうか。さすがだな。実は……母上から鍛えられたカールに、頼みがある」

カールは、母上から鍛えられているから情報収集能力が高い。オレはひたすらに父上と身体を鍛えた。今のところ、カールの能力を発揮する機会は限られているが、今後は動いてもらう事が増えるだろう。

「なんだよ。俺が出来る事ならするぜ。なんの情報が欲しい？　姉さんを狙ってたハンス王子の事はもう調べてあるぜ。予想通り、姉さんを自分に惚れさせて兄貴を崩そうとしたらしい。だったらもうちょっと調べろよな。ちょっと夜会に行けば、姉さんが兄貴にベタ惚れなのは分かるだろうに。これ、資料だ。あんまり王家に情報はないって姉さんが言うから、部下と調べてきた。国内の評判は良くねぇな。兄貴と正反対の女好きで、貴族も庶民も被害にあってるってよ。顔だけは綺麗だから、顔だけ王子なんて呼ばれてやがった。今も部下に調査させてる。みんな本気だから安心して連絡を待っててくれ」

「オレはそちら方面は苦手でな。いつも助かってるよ」

「俺は兄貴のサポートをするのが仕事だからな。ミリィも怒ってたから手伝ってくれてる。で、なんの情報が欲しいんだ？」

カールは、オレが結婚してすぐにずっと恋人だった子爵令嬢のミリィと結婚した。既に2人の子どもが産まれている。結婚式で待たせてすまないと言ったら、あんなに良い人が兄貴と結婚してくれたなら待った甲斐があったと言ってくれた。本当に出来た弟だと思う。

「エリザベス様と、王太子殿下を調べて欲しい」

「は？！　王族を調べろって？　しかも、エリザベス様は姉さんの親友で、クリストファー様の妹だぞ？！　クリストファー様は兄貴の親友だろ？！」

「分かってる」

「本気か」

「本気だ。エリザベス様はシャーリーと同じく、真面目で真っ直ぐな方だ。だけど、彼女の周りには何かが蠢いている」

「確証はあんのか？」

「王太子殿下は、シャーリーに親友が心配ではないのかと仰ったそうだ」

「それ、おかしくねぇか？　何か心配する事がねぇと出る台詞じゃねぇよな。姉さんはおかしいって気が付かなかったのかよ」

「いつものシャーリーなら気が付いたんだろうけど、王太子殿下は余程オレの大事な妻を追いつめたらしい。断るのに必死で、気が付いてない。オレも言わなかった。シャーリーは、エリザベス様を心配しているだけだ。やっぱりどこかおかしいよな？」

オレはカールや母上みたいに会話の裏を読むのは苦手だ。カールの反応次第で、今後の対策を考えたい。

「おかしいな。エリザベス様は完璧な王太子妃だって有名なのに、何を心配する事があるんだろうな。貴族の評判も良いし、民の人気も高い」

「オレも以前から知っているが素晴らしい方だ。彼女自身は真面目に職務をこなしておられる。心配する事など、ない。彼女は相談役なんて必要としていない。シャーリーが相談役になれば、友人として接する事が出来ないから嫌だと仰っておられた」

「王太子殿下が姉さんを相談役にしようとした理由があるって事だな。上手い事言ってたけど、相談役になれば王城から動けなくなる。魔法で契約までするんだから兄貴の結婚の契約より優先される。姉さんはその辺を分かっていてくれたから良かったけど、まさか……王太子殿下は兄貴と姉さんを引き離したいのか？」

「オレもそれを考えた。オレ達を引き合わせてくれたエリザベス様がオレ達が離れる事を望むとは思えない。きっと、エリザベス様も知らない何かがあると思う。王太子殿下だけでなく、エリザベス様も調べた方が良いと思うんだ」

「なるほどなぁ。だから母上が居ない時に俺に話したのか。母上が聞いたら、やり過ぎちまうもんな」

「ああ。そうだ。ただでさえ母上は怒ってる。分かってて怒らせたのはオレだが、これ以上はまずい。母上が動いているから王家も警戒してるだろう。探っている事に気付かれてはいけない。王家やクリストファーの家はもちろん、シャーリーや父上、母上にも内密に頼みたい。カールとミリィの2人で調査出来るか？」

「任せとけ。絶対に誰にも知られず調べてやるよ。どんな思惑があるのか分かんねえけど、うちの宝物に手を出そうとした奴らには、それなりの代償を払って貰う」

カールが言う奴らとは、隣国なのか王家なのか。それとも、両方なのか。

冷静な顔をしているが、カールも相当怒っている。