第26話

あの後、縁を切る手続きに実家に行った。


クリストファー様から散々搾られたらしくて、姉がとんでもない事をしたと平謝りだった両親に、サクッと縁切りを認めさせた。


ようやく辺境伯の地位が高い事を知っても後の祭り。フレッドを侮辱していたお父様やお母様が、必死で媚びを売っているのを見るのは滑稽だったわ。


王都で行う式は、わたくしの希望で取りやめにした。お姉様の式と同じ日にしたらわたくしの式なんて来ないでしょうって言ったら黙っていたわ。


これで、この家とは完全に縁が切れる。


お姉様はうるさかったけどね。


「どうしてよ! わたくしシャーリーを可愛がっていたわよ! シャーリーは、わたくしが好きでしょう?」


「大嫌いですわ。勝手にドレスを取り上げる。自分が勉強をしないだけなのに、わたくしが褒められたら癇癪を起こす。旅行に置いて行って、帰ってきたらどこで食べ物を恵んで貰ったのかとバカにする。あれ、下手したらわたくし餓死ですからね? 人は食事を摂らないと死ぬのよ? 夜会にわざと貧相なドレスを着せて嘲笑う。見知らぬ男に妹を売る。どこに好かれる要素がありましたか? まぁ、お父様やお母様が、お姉様優先になさったのだからこんな風に育っても仕方ないのでしょうけど。お父様、お姉様への家庭教師はお金の無駄ですわよ。お姉様は、授業中はほとんど寝てますもの」


「シャーリー……酷いわ……」


「酷い? お姉様の事? お姉様はなんでもわたくしのものを取るものね。お母様もそれを容認する。今までお姉様が盗んだわたくしのドレスは差し上げますわ。フレッドから貰った物だけは欲しかったけど要らないそうよ」


「貴方の手垢が付いたものなど、愛する妻に渡せませんからね」


「お姉様、この記録玉にはサリバン先生の授業が入ってるわ。お姉様が反省して今後まともになると言うのなら、今すぐご覧になった方がよろしくてよ」


お姉様とのやり取りを収めた記録玉だ。ケイリー様への忠告も入っている。


今すぐ見れば、結婚は止められるかもしれないし、マナーだって学べば、エリザベス達への無礼も許されるかもしれない。


複製はしてあるから、わたくしからの最後の忠告よ。


「さようなら。今まで育てて頂きありがとうございました。お父様も、お母様もそのままお姉様とお幸せに。わたくしは、わたくしを大切にして下さるフレッドと幸せになるわ。お姉様も、ケイリー様とお幸せに」


「こちらは結納金です。規定の倍あります。お姉様の式で物入りでしょう? 今後一切シャーリーと関わらないで下さるなら、お渡しします。シャーリー1人分の今までの養育費くらいはあるはずです」


「フレッド、金額はどうやって算出した?」


「報告されてる娘の予算を、今までの分全て足して半分に割ったんだが?」


「多いわよ。わたくし、お姉様の予算の半分でやっていたのよ?」


「……は? いや、ありえないだろ」


「この家はありえるの」


「なるほど、普通は娘1人ずつ記載するのに何故まとめてなのかと疑問だったが、姑息ですね」


「そ、姑息なの。嬉しいわ、こんな家と縁が切れて」


散々言うわたくしに、普段なら怒鳴りつける両親も、ヒステリックに喚く姉も黙ったままだ。


それでもお金がないのは確かだし、あっさりサインしたわ。お姉様の式はどんどん豪華になっていて予算不足だったからね。


フレッドがくれたお金と、男爵が置いて行ったお金があれば、式のお金くらいは、余裕で賄える。


本当は、お金を渡すのは反対したんだけど、きっちり縁を切るには必要な経費だとフレッドが譲らなかった。


エリザベス達にも説得されて、わたくしも受け入れたわ。


これでここに来る事は2度とない。さようなら。

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