第2話 初恋大作戦

「ねー今日あんたたち部活よね?」


昼休みの教室にやってきた南が教室の後ろのドアから顔を覗かせた。


一気にざわめく教室。


生徒会役員で、且つ学校一美少女の望月南がやってきたのだ。


元もと妹たち幼馴染が居るクラスにはちょくちょく顔を覗かせるのだが、それでも一気に空気が変わる。


ただの地味なセーラー服も南が着ると途端に可愛くなる。


肩までのまっすぐな髪が揺れて、頬をくすぐる。


ボーっとする男子たちの間から、ひとり冷静な声がした。


「望月さん、さっき生徒会役員の呼び出し入ってたけど、大丈夫?」


勝だ。


「え、うそ、まじ?」


「マジ」


「じゃあ急がなきゃ・・」


呟いた南のもとにお弁当を片づけるひなたの代わりに多恵がやって来る。


今日は、当番では無いので教室にいるのだ。


「いつも通りの部活みたいだけど、どうかした?」


「ううん・・・一緒に帰ろうかなと思っただけ」


「放送室で待っとく?」


「んーそうしよっかな?」


笑って南が多恵の短い髪を撫でる。


そのしぐさに少し頬を緩めた多恵が、南の顔を見て呟く。


「・・やっぱりなんかあったんだ?」


「大丈夫だってば」


「南ちゃんー」


「どした?多恵」


後ろから柊介もやってきた。


そして京も続いてくる。


実は先に生徒会室に行っているらしい。


「ちょっとね、帰り道つけられてるみたいなの」


ため息交じりに告げる。


本当は幼馴染を巻き込むことはしたくないのだが。


今回ばかりはどうしようもない。


自分でも手に負えない状況なのだ。



「どーゆーことよ!?」


大声を上げたのは多恵だ。


そうなるから言いたくなかったのだけれど。


多恵は団地組に何かあると一番心配する。


それも異常なほどに。


その声を聞きつけてひなたと勝も怪訝なん顔でやってきた。


これにてフルメンバー勢ぞろい。


「なんかあった?」


「どうしたの南ちゃん」


「うん・・それがね」


南は頷いて、これまでの通学中の出来事を話し始めた。


それがいつ頃から始まったのかは分からない。


気づいたら、いつも同じ人物に後をつけられているのだ。


どうやら私立高校の生徒であるらしいその人物は、南がひとりで帰るときに限っていつもある程度の距離を保って後を追ってくる。


南がコンビニや本屋に行っても、必ずその後また現れるのだ。


話したことなどない相手。


南は、自分の容姿が人を惹きつけると殆ど自覚していない。


どこにでもいる”普通の中学生“だと思っている。




★★★★★★




結局大好きな部活を休んで団地組+勝は京の家に集まっていた。


すでにここが集合場所の定番となっている。


生徒会が終わるのを待ってみんなで帰って来たのだ。


今日は高校生は現れなかった。


姿を確かめることが出来ないので、南の記憶を頼って人物について詰めていく。


「ブレザーの色分かる?南ちゃん」


「えっと・・グレーのブレザーだと思う。ここらへんであんまり見ない制服だったの」


「グレーのブレザー・・村高の制服ってグレーじゃなかったっけ?」


柊介の問いかけにバスケ部仲間の勝が頷く。


つい先月の地区大会で中等部と当たったのだ。


「あーたしかそうだったな。グレーのブレザーに紺のネクタイじゃなかったけ?」


「先月の試合なら、南ちゃん応援行ったよね・・みんなで」


幼馴染の試合は予定を合わせてみんなで応援が団地組のモットーだ。


当然南も参加した。


実が重たい溜息を吐く。


「その時かー」


「多分ねー」


「えええっあたし悪目立ちしてた?」


南の言葉に幼馴染たち+勝が顔を見合わせて溜息を吐く。


それを見て、南がきょとんとした。


「えええそんな酷かった!?」


「いやいやいや、望月さん、違うから」


勝が苦笑いする。


「南ちゃん、いい加減自分の魅力自覚しようなー」


「そうそう。南ちゃんは可愛いんだよ」


「美人なんだよ」


「綺麗なんだよ」


「つまり美少女ってこと!あたしの自慢の」


多恵が纏めて自慢げに言う。


「こーなったら、南ちゃんを守ろう大作戦を決行するしかないよ」


人差し指を立てた多恵が、計画に欠かせない人物の名前を上げた。






★★★★★★





「南!」


校門から手を振る颯太を見つけて、南は自然と笑顔になる。


「颯太くん!」


駆け寄った南の髪を撫でて颯太が微笑む。


「おかえり」


こうなることは予想していたけれど。


幼馴染だし、良く知っている相手だけれど上がる心拍数が抑えきれない。


「・・た・・ただいま・・髪くしゃくしゃ?」


昇降口から走ってきたので、髪が乱れたのではないかと心配そうな南に向かって颯太が応える。


「ちょっとな、ん、もう直ったよ」


「ありがと・・」


赤くなる頬はどうしようもない。


むしろこの方が効果はあるだろう。


今更ながら颯太の彼女が羨ましくなる。


「嬉しそうに走って来るからさ」


「だって嬉しかったもん!」


これは本気で。


話を聞いた颯太はすぐに”明日から授業終わったら迎えに行ってやるよ”と言ってくれた。


相手が高校生ということも心配だし。


頼もしい幼馴染のおかげで、一気に心強くなったのだ。


「素直」


呟いて颯太が南の髪から手を離す。


少し残念だと思った次の瞬間右手が差し出された。


「帰ろっか」


「うん」


頷いた瞬間に南の手が握られる。


指を絡めるしぐさにドキッとしたら、視界の端に例の高校生が入った。


「颯太く・・」


南の強張った声に、颯太が目配せして反対の手で南の頭を落ち着かせるように撫でた。


「みーなみ。寄り道どこがいい?」


優しい声のトーンに南もゆっくりと合わせる。


「ダブルのカップアイスと雑貨屋さん覗いて本屋さんも行きたいー」


「盛りだくさんだなぁ」


「だって颯太くんと行きたいんだもん」


「甘えた」


笑って颯太が答える。


南も笑みを浮かべた。


「甘えた嫌い?」


「・・・好きだよ」


「う・・うん」


甘やかな響きと指先を包む温もりに


どぎまぎして南が視線を下げた。







この大作戦が功を奏して、ストーカー高校生が二度と現れず。


無事に事件は解決したのだが。


平穏な日々を取り戻した代わりに、南はこの日から数週間の間初恋が復活して、颯太の顔をまともに見ることが出来なかった。

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