Novelber day 24 『額縁』

 深夜零時に美術室に行くと、あの女の顔が笑って見えるんだよ――それはよくある、学校の怪談。声を潜めてA君が指さしたのは、卒業生から寄贈されたという、一枚の油絵だった。美麗ではあるが派手さはなく、むしろ暗い色調のせいで、陰鬱な印象を受ける。描かれた女の顔もいかにも沈痛で、唇をギュッと真横に結び、授業中の私達を冷たく見下ろすのが常だった。

 みんなは怖いだの馬鹿馬鹿しいだの、口々にはしゃいでいたけれど、私だけはその空気に乗れなかった。いつもそうだ。私の中には彼らと共有できない暗さがあり、そのせいで周囲から疎まれていた。家でも同じ。

 ……だからふと、試したくなったのだ。どうせ、誰も私と一緒に遊んだり、帰りを望んだりしないのだから。深夜零時まで、トイレの中でかくれんぼをした。スマホと睨めっこをして、夜食代わりの菓子パンを囓って。そして真っ暗な廊下を進み、美術室に赴いた。

 何かを期待していた訳でもない。驚きたかった訳でもない。ただ、いつもと違うことをしたかった。たまにはこんなに大胆なことも出来るんだって、自分に言い聞かせたかった――ただ、それだけだったのに。

 額縁から、ぶらんと二本の腕が垂れていた。

 女が、ニコニコと弾けるような笑顔を向けて、私をじっと見下ろしていた。

 その場に尻餅をつく。女は、首を反らせてケッケッと笑う。笑う。黒目が大きくなり、ガラス玉のように光る。

 その両腕が、私の肩を掴んで、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る