Novelber day 11 『栞』

 今日はここまで、と読んでいた本を閉じる。栞にしているのは、昔通っていた喫茶店の名刺。読書灯の柔らかな光の下で、懐かしいお店のロゴが黒く浮かび上がる。

 あの頃も、いつも本を読んでいた。重たい扉を開けて、薄暗い店内に入って。奥まったいつもの席に座り、使い込まれたテーブルに肘を置いて。少しだけ砂糖を溶かした珈琲を飲みながら、夕暮れまで座っていた。

 昔暮らしていた、あの街。とっくに閉店してしまった、あの店。一人で苦笑する。本そのものよりもこの栞の中からこそ、こんなにも沢山の物語が溢れるなんて。

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