竜の守人と最強幼女のスローライフ~追放された先で最強保護者になったみたいです~

西の果てのぺろ。

第1話 追放同然の出国

 王都ドラゴニア。


 スサは大国ドラゴニア王国の宰相を務めるアマノ侯爵の三男として侯爵家の特徴である銀髪に、燃える様な赤い瞳を持って生まれた。


 ドラゴニア王国は名前からわかるように、ドラゴンを祀って建国された国であるが、それも遠い昔の事。


 五百年前に王国が敬い祀っていたドラゴンの死を最後に知性ある全てのドラゴンは地上から消滅したと歴史書に記述されている。


 そして、その時にあるスキルも消滅していた。


 それが『竜の守人』である。


 ドラゴンが地上に存在した時代には選ばれた者にだけ宿るという紋章であり、スキルであったが、ドラゴンが消滅してからはその紋章を宿す者は現れなくなったと歴史書には記されている。


 だが、スサはその歴史書の中にしか記されていない『竜の守人』の紋章を左胸に宿して誕生した。


 この誕生は、ドラゴニア王国の由緒正しいアマノ侯爵家から誕生したという事もあり、王家もスサに期待した。


 ドラゴニア王国は建国から千年を数える歴史ある大国だったが、近年では斜陽の兆しが見えていたのだ。


 そこに歴史書にのみ記されていた伝説の『竜の守人』の紋章を持つ男児の誕生であるから、ドラゴニア王国の新たな転換期になると期待されたのだった。


 そのスサが誕生して十八年近く、その期待もいつしか失望に、さらには無関心に変わっていった。


 この国の成人は十六歳である。


 その頃にはみな、生まれ持ったスキルを自在に扱えるようになり、才を発揮するのが常であったが、肝心の『竜の守人』を持って生まれたスサは、スキルを扱うどころかその一端も発揮する事なく凡人以下のまま成長してしまったのだ。


「……とんだ役立たずだな。幼少期には神童の誕生と持て囃されたらしいが、今や生まれが高貴なだけ。何の能力も発揮していないようだから、貴族の務めも果たせないのは明らかだ」


「成人後も王家は忍耐強くあの男を見守っていたが、最近では陛下もしびれを切らして宰相閣下にも強く当たっているらしいぞ?」


「聞いた話では、宰相閣下はあの役立たずの三男の籍を外す事を検討しているらしい」


 王宮ではそんな貴族達の噂がまことしやかに囁かれ、事実、それも時間の問題とされていた。


「こんな紋章があるせいで……!」


 スサは、自分の左胸にある紋章が呪いの烙印でもあるかのように、沈痛な面持ちで唇を噛んだ。


 スサは誕生からずっと期待されていたので、それに応えるべくあらゆることに挑戦し日々努力を重ねてきた。


 だが、スキルの差は大きく、他の者たちはスキルを開花させると自分の得意分野で活躍していったが、『竜の守人』持ちであるスサは、凡人以下の成長速度で、いや、成長しているのかも怪しい状態で、年齢だけを重ねているのだ。


 周囲もその努力する姿に、最初は好意的に見守っていたのだが、成人が近づいてくると不安に代わり、成人を迎えると落胆し、それから二年経った現在では諦められて無関心になっていたから、スサの名前は期待を裏切る時の代名詞として、『スサる』と、使われる程であった。


 そんな王都一の有名人から空気以下の扱いになったスサは、十八の誕生日を迎える一週間前に一大決心をして、父親に申し出た。


「父上、僕はこの家を去り、国も出たいと思います」


「やっと……か」


 息子の悩み苦しんだ末の一大決心の言葉に、父親の無情な一言が残酷であった。


 同席していた長男アレンと、次男カインもそれに続く。


「父上、これまでのご苦労、心中お察しします。お疲れ様でした」


「成人から二年、父上はどれだけその言葉を待っていたかわかるか!?」


 兄達は父のこれまでの苦労を労うと、弟であるスサに冷たい視線を向ける。


 その言葉にスサは大きなショックを受けた。


「では一週間で支度を整えよ。そのくらいは待ってやる」


 父アマノ侯爵は王国期待の星として生まれたスサの親として名誉も得たが、この数年ではそれ以上に中傷の的にもなって来た。


 だからスサの無能ぶりに追放して楽になりたかったが、王家には「いつかきっと紋章の力に目覚めてくれるはずです!」と、説得していた手前、自分から追放する事が出来ずにいたのである。


 だから、成人から二年も父親が耐え忍んできた事をアレンとカインは知っていた。


 兄二人も、この弟スサの為に苦労も多かったから、スサ以外の家族はこの日まで一致団結して耐えていたのである。


 家族のそんな冷たい態度にスサの心はズタズタであった。


 スサ自身はそんな家族への迷惑を解消する為、日々の努力を重ね、スキルが目覚める日を待ち焦がれていたのだが、あらゆる書物を読み漁った結果、どうやら肝心のドラゴンが存在しないとこの紋章が無用の長物である事をスサも薄々感じ始めてはいた。


 家族に対するショックも大きいが、自分自身へのショックも大きかったスサは、遅くなったがこうして国を出る決断をしたのである。


「親として最後の情けだ。その名前のままでは、生きづらいだろう。戸籍は新たなものを用意しておいたから、それに変更しておく。これからは、タロと名乗るがいい。そして、お前の事は流行り病で亡くなった事にしておく。それなら死体を焼いた事にして処分した事にも出来る。──それから、お前はアマノの名を決して口にするな。よいな?」


「……はい」


 スサ改めタロは、母にお別れの挨拶する事を願ったが拒否された為、失意の中、アマノ侯爵家の象徴である、その目立つ銀髪を魔法によって黒色に染めると王都を出て、ドラゴニア王国を後にするのであった。

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