第二話 寄生するものとされるもの

プロローグ 森に静寂が訪れる前に

―世界はどこも美しく、どこも危険だ。つまり美しいとは危険なものである。―



爽やかな風に乗って鼻歌が聞こえる。

それは穏やかで、とても優しい音色だった。


旅人が、森の中の大きな木に寄りかかり、目を瞑りながら気持ちよさそうに鼻歌を歌っている。周囲には誰もおらず、生き物の気配すら感じない。


そんな時間も止まりそうな静寂の中を心地よい鼻歌だけが流れていく。


「それなんて曲?」

少女の隣から声が聞こえてきた。

少女は一度歌を中断すると、少し考えてから「忘れた」とだけ返し、続きを奏で始める。


木陰から見える空には、雲ひとつない空がただただ広がっていた。


しばらくして少女が歌い終わると、先程の声が再び訊ねる。

「満足した?」

「うん、満足した」

少女は目を瞑ったままそう答えると、森の中では静寂だけがしんっと響いていた。


最初の声が催促するようにまた訊ねる。

「じゃあ休憩は終わりにしてそろそろ行かない?それともここで野宿するつもり?」

「…そうだね、そうしよう」


一拍おいてそう答えると、少女はゆっくり目を開け、重い腰をあげて歩き出す。


静かな森の中、彼女の背中が見えなくなるのを、大きな木だけが見送っていた。

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