一章 ここは天国?

第1話 いきなり据え膳?♥︎



 目の前には裸の八乙女さん。

 近未来的室内。

 時間感覚の麻痺まひ


 なんだこれ?

 おれ、寝てるんだよな?

 これは夢だ。そう。じゃないと、なんで、死んだはずの八乙女さんがここに?


 にしても、八乙女さん。いきなりですか?

 いきなり裸はマズくない?

 おれたち、まだデートもしてなかったよね? デートして、運がよければ手つなぎ、は、は、初チューくらいはアリか? アリなのか? って、たしかに思ってたよ?

 だって、おれ健全な高二男子だもん。ふつうに可愛い女の子好きだよ。


 けど、そんな、いきなり真っ白な乳、丸出しされても……。


「お願いです! わたしを第一夫人にしてください」


 プルン。

(何がって聞くな。そこに視線が釘づけなんだよ)


「お願い。わたしには、あなたしかいないの」


 プルプルン……。

(だから、何がって聞くなよ? てか、おれ、誰にむかって言いわけしてんだ? ああっ、もう! わけわからん!)


「や、あの、それより、なんか着たほうが……」


 すると、じりじり、こっちに迫ってきてた八乙女さんが、とつぜん、すがりついてきた!

 ああっ、やめてくれぇー。

 当たってるし。ビー……ビー玉が当たってますって。


「山田くん!」

「は、はい?」

「わたしのこと、嫌い?」


 いや、そんなうるんだ目で見あげられるとさ。ほんのり頬染めて、くねっとかさ。押しつけられた胸がね。胸が……。


 八乙女さん、決して巨乳ってほどじゃない。少女らしいほっそりした肢体にふさわしい、つつましやかなサイズ。けど、貧乳ってわけでもなく、こうして二人のあいだで押しつぶされると、なんだろう? 大袋のマシュマロが激しく自己主張してる感じ。ふわっとモチモチのなかで、一部コリッと……。

 な、なんか意識がもうろうとしてきた。


「き、嫌いじゃないよ。いや、むしろ、す、す、好き……かな?」

「ほんとっ? わたしも。山田くんのこと、ずっと気になってた!」


 そう言うと、八乙女さんは膝立ちになって、さくらんぼ色の唇をむうっと、とがらせてくる。こ、これは、アレか? チューですか? おれにキスしろと?


「い、いいの? 八乙女さん」

「いいの! だって、わたし、あなたの第一夫人だよね?」

「うん!」

「嬉しいっ!」


 やっぱ、夢なんだ。

 触感がいやに生々しいけど、夢。天国に来てる夢を見た。

 または、八乙女さんはひそかに、おれのことをずっと好きでいてくれたんだ。だから、デートで想いを伝える前に死んじゃって、死んでも死にきれず会いにきてくれた。


 てことは、八乙女さんは幽霊なんだけど、このさい、どうでもいいくらいのポヨン、ポヨン。


 おれはそっと、それを手のひらで包んだ。や、やらかい……女の子ってやわらかいんだぁ。


 ムチュウッと、八乙女さんが吸いついてきた。

 ああ、もう、あれがこうなって、これがああなって……。

 そのあとのことは……至福。それ一語。もう思い残すことはない。


 大人の事情でこれ以上は語れない(だから、誰に言ってんの? おれ?)が、たっぷり楽しいことをした。

 おたがいに初めてだった。のめりこむ彼女の最奥で、おれはおれが男になる歓喜を知った。


 据え膳だからね。

 しかも好きな子から迫られてさ。食わないことなんてできないよ。


 ありがとう。八乙女さん。

 亡霊になってまで会いに来てくれて。


「わたし、亡霊じゃないよ?」

「へ?」


 すべてが終わったあとになって、八乙女さんは言った。


「でも、死んだよね? トラックにひかれて」

「それは、あなたの世界のでしょ?」

「……」


 なんか、雲行きが怪しい?


「これ、夢じゃないの?」

「違うよ?」

「これは夢で、君は亡霊」

「やだ。こんなにしっかり体あるのに?」


 彼女は僕の手をとって、まだ熱をもったポヨンポヨンに押しあてる。うーん。心地よいやわらかさ。


「……でも、幽霊じゃないなら、なんでいるの?」

「だから、ここはなの」


 ああ、イヤな予感。

 そう言えば、失神する前、世界中がマーブル模様みたいにグニャグニャになった。異様だな、とは思ったんだよな。


?」

「そう。わたしの世界」


 もしかして、彼女、トラックにひかれたからか? そうなのか? これはいわゆるウワサに聞く……でも、なら、なんで、おれまで?


 八乙女さんは優しく微笑みながら説明してくれた。


「あなたはわたしの父が作った召喚機によって、こっちの世界に召喚されたの」

「召喚機……」


 ショックのあまり、つい鸚鵡おうむ返しにしてしまう。


「わたしたちの世界は滅んだの。あなたたちの世界ではコロナが流行ったでしょ? わたしたちの世界で起こったパンデミックは、もっと深刻な感染症だった。罹患りかんすると百パーセント死ぬ。ほとんどすべての人類が死滅した。生き残ったのはごくわずか。そのなかに天才とうたわれたバイオテクノロジー研究者の父もいた。生き残った人たちも近い日に死にたえることは、その時点でわかってた。それで、父は娘のわたしを改造した。わたしは遺伝子操作を受けて、無限に分裂増殖することができるようになった。だから、今、この世界にいる二十億人の人間は、すべて、なのよ」


 くらっ。

 今、めまいした。

 誰か、嘘だと言ってくれー!

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