作戦はまだ、終わっていない
パンダに腕を捕まれ、ほとんど身動きがとれない状況にある。
スノウラビットの左腕がミシミシと悲鳴を上げ、徐々に潰れていく感覚が、コックピットにも伝わってくる。
”ビーッビーッ”
その悲鳴はコックピットの中で直に聞こえてきた。
アラート音が室内に鳴り響き、モニターに移されたポリゴン調のスノウラビットの左腕が真っ赤に点滅している。
そしてそのスノウラビットに追い打ちをかけるかのように、スノウラビットの左腕を口元に持っていき、そのまま噛み始めた。
ジャイアントパンダを動物園で見た時、彼らが口にしているものとは何なのか。
無論、竹である。
パンダが竹を食す理由は、竹から高濃度なデンプンのみならず、ペクチンやヘミ繊維素を同時に摂取でき、最も効率の良い食べ物であるからだ。
そして、パンダが竹を食べているシーンを、実際に見たことがあるだろう。
その鋭い牙で、固い竹を噛み砕く。
それがパンダの竹の捕食方法である。
そしてこのパンダは、巨大化すると同時に勿論、牙も発達している。
だがしかし!
宇宙空間において竹など存在しない。
では今、このパンダに対する
そう、目の前のスノウラビットの腕である。
スノウラビットの腕を噛み砕くほどの力を、このジャイアントパンダは持っている。
本能的に、この腕の噛み砕き方は知っている。
この攻撃による被害総額、ここでの攻撃が初めてであるため、今の所0ドル。
しかし、このままアサミ・イナバの命が失われようものなら、被害総額はゆうに百万ドルは確定だ。
”バキッ”
”ミシミシッ”
スノウラビットの悲鳴が耳にも入ってくるような状況にもなったが、アサミの心の中は心底落ち着いていた。
コックピットの中で叫ぶでもなく、二人に助けを乞うでもなく。
ただ、次の行動のパターンを考えていた。
「フーーーっ」
大きく息を吐きだし、精神統一を図る。
勝負は一瞬。
この一瞬を失敗すれば、作戦は本当に失敗するだろう。
だが、作戦は、まだ終わっていない。
「このォォォッ!!」
殆ど動かない左腕を、無理矢理にでも動かした。
ジャイアントパンダの体がスノウラビットの左腕を軸にして持ち上がり、アサミとモニター越しに目が合った。
「要するに、眼ェ潰しゃいいんでしょ?」
アサミは躊躇なく、ジャイアントパンダの左眼にヒート・アサシン・ナイフを刺した。
物凄い勢いでジャイアントパンダの左眼から赤い液体が吹き出した。
紛うことなき血だ。
『グッ、グアアアアアァァァァ!!!!』
今度こそ、こいつの本当の悲鳴だ。
左眼にヒート・アサシン・ナイフを刺したまま、後ろへと仰け反る。
まるでそこに地面があるかのように、二本足立ちしながら後ろに引き下がっていく。
「まだ終わってないわよッ」
”キィィィィィ”
コントロールマウスを極限まで押し込み、一秒もせずにジャイアントパンダの元までたどり着いた。
目の前にスノウラビットが現れても、パンダはのた打ち回っているだけである。
「まずはそれ、返してよ」
ジャイアントパンダの左眼に突き刺さったヒート・アサシン・ナイフを、右手で思いっきり掴んだ。
その衝撃で更に左眼が切れたのか、更に血が吹き出した。
アサミはヒート・アサシン・ナイフを逆手で引き抜き、
「そろそろぶっ倒れてよ、このォ━━」
そのまま右眼に流れるように突き刺した。
「
『グラァァァァァゥァァァ!!!!』
最早聞き取れない、何を言っているのかわからないような悲鳴が耳を貫いた。
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