討伐

各国のトップ

<イカロス>大統領、ニアール・ワークマンは、一つの部屋の前にいた。

政府の施設にしては、一箇所だけ明らかにメカメカしい構造になっている。


「━━あまり好きではないのだがね……」


ニアールは困ったようにそう吐き捨てると、その目の前に広がるメカメカしい部屋に足を踏み込んだ。


中はとても暗く、先がまるで見えない。

自分の足元が肉眼で見える精一杯の明るさだ。


だが、ここまで部屋を暗くするには意味がある。


ニアールは慣れた足取りで歩いていく。

すると、目の前に一つの椅子がある━━そんな気配がした。

実際、そこには回転式の固定された椅子が置かれており、更にはその部屋の真ん中を向くように、円になって目の前のような椅子が多数置かれている。

しかし、その多数用意された椅子には、誰も座っていない。


ニアールは目の前の椅子に腰掛けた。


「ふぅ……」


ここ最近、働き詰めの毎日(ピーターの演説によって、仕事が急激に増えた)であったため、中々休める機会が無かった。

なので、今、椅子に座れて少しホッとしている。

色んな人が後ろに控えているが、そんな状況でも寝れる気さえしてきた。


「では、そろそろ始めるとしましょう……━━皆様、カメラをオンにしてください」


ニアールがそう言うと、円になっている椅子の一つ、ニアールの左隣の椅子が光りだした。


━━プロジェクションマッピング、というやつである。

そこに無い物や人を、まるでそこにあるかのように映し出すことができる。

しかし、現代のプロジェクションマッピングとは、一味違う。

それは、リアルタイムで、尚且、等身大、立体的に、その人物の細かな動きまで再現できるというところだ。


そして、そのプロジェクションマッピングで映し出されたのは━━


「お待たせしてすいません……」


<ノア>大統領、オーゲル・ネーズムである。

オーゲルのその白い肌は、女性でも憧れてしまうほどである。

黒髪がスーツの色とどことなく似ている。


「いえいえ。そんな事は無いですよ。私も少し休める機会が増えたというものです」


ニアールは苦笑しながらそう言った。

実際は休めてなんていないのだが。


次に、右隣の更に隣が光りだした。

またプロジェクションマッピングだ。


次に現れたのは、今度は茶色い肌の人間である。

それは日焼けなどではなく、人種によるものだ。

しかし、誰もそのことについてどうこういう気はない。今時、差別なんてしている方が時代遅れだ。


この男は、<クロノス>大統領、エンゲル・カンネンである。


「まだ全員揃っていないのですか。時間が勿体ない……」


「後一人ですので、少々お待ちを……きっと、すぐに来ますよ」


エンゲルはそうですか、とだけニアールに返した。


にしても、もうひとりがいつ来るかは、まだ分からないが。




しばらく、と言っても五分ほど経った時、ニアールの真反対、つまり正面の椅子が光りだした。


この場にいる三人は、やっと来たかという思いに駆られる。


プロジェクションマッピングに映し出されたのは、今この場にいる最年少の大統領、<クロノス>のエンゲルが34歳なのに対して、今映し出された人間は、どう見てもまだ20代にしか見えない。


その人こそ、<アキレス>大統領、クルック・デメキシスだ。


その年齢、僅か21である。

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