第10話 ギャン泣き

 ギリギリと睨み合ったのもつかの間。

 2人は勢いよく、群れの中に突っ込んでいった。


「セイントトルネード! ふふっ、2匹ゲットです。おや、そちらはまだのようで」


「エブリンパーンチで並んで、キーック。ふん、これでリードだぎゃ」


「むぎぎっ、負けませんわ。セイントサンダー」


 ちからのエブリン、魔力のイオナ。どちらも譲ることなく次々と狩っていく。


 だけど、バフの効いた今、2人の実力は超弩級なんだよ。


 張り切れば張り切るほど、その余波だけで、周りの自然がメチャクチャに、……ああ、あああ、ま、まずい。


「ちょっとダメだよ。2人とも止めるんだ」


 野生動物はいち早く避難を始めている。しかし、動けない物はこの災難を受け入れるしかない。


「うりゃー、ワンちゃんに相応しいのはこの私ぎゃ」

「ふん、自分が足手まといなのも、理解できないのね」


 どうしたらいいんだ、全然止まらないよ。

 絶対服従かと思っていたのに、制御がきかないんだ。


 動く度にどんどん何かが壊れていく。


 ギガントボアは無限追跡者を解除して、スタコラサッサと逃げ出している。

 それでも追撃をもやめようとしない。


「ああぁ、そっちに行ったらダメだよ。秘密の薬草の森がぁ、やめて!」


 弱いみんなが最後にすがる場所。これ以上はダメだ。


 僕は勇気をふりしぼり、暴れまくる2人の前にたち、両手を広げて止めにはいった。


「コラアアアァァアアーッ、いい加減にしないかああああああああああああああ!」


「「ヒィイイイイッ!!」」


 自分でもびっくりするぐらい、大きな声が出た。


 ようやくだけど、2人をなんとか止める事が出来たよ。

 2人は小さくちぢこまり、もうこれ以上の破壊の心配はない。


「でも見渡す限り、はぁ……悲惨としか言えないよ」と、ため息がでる。


 短時間で地形は崩れ、川の流れは曲がり、木々はなぎ倒されている。


「これだって樹齢百年を超えている木なのにさ、はぁ」


「ご、ごめんなさい……」


 彼女たち2人は貴重なネームドモンスター。

 でも契約者の命令を聞かず、暴走するなら手に負えない。


 辛いけど、これは決断をしなくてはいけないかもだ。


「えっ、ウソだぎゃ。テイムを解消するなんて言わないで欲しいぎゃ」

「申し訳ありません、マスター。私も調子に乗ってしまいました。お許し下さい」


 くっ、2人ともウルウルと上目遣いで見てくる。こ、ここは許してあげた方がいいかな?

 だ、ダメだ、心を鬼にして……えっと、鬼にしてだよ。


「いいや、君らのせいで、壊れなくていい自然が台無しだ。ここで住む動物にとっては、無慈悲な暴力でしかないんだよ。僕は心底呆れたよ」


 この言葉に、2人はすがりついてきた。


「ごめんなさい、私、ワンちゃんが大好きだぎゃ。だから捨てるなんて言わないで」


「私もマスターなしでは生きていけません。2度と暴走しません、命令はなんでも聞きます。だから、ソバにいさせて下さい」


「ううっ、イオナとも仲良くするぎゃ。だから、許して。うっうっ、うわぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁんんん」


「お願いだから、捨てないでぇぇ。びぃいいぃぃえぇぇぇえんんん!」


「うわぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁんんん!」

「びぃいいぃぃえぇぇぇえんんえんえんん!」


 むぐっ、泣かしてしまった。





 ふたりは散々泣きに泣き、倒れた木々をおこし、傷ついた動物を癒し、そして疲れはてた。


 僕がしろと言ったのではなく、自分たちで始め、それを僕が見守った。


「うっうっ、ごめんなさい。これ以上は直りません」


「えっえっ、えぐっ、わ、私も無理だぎゃ」


「そうだよね。壊すのは簡単でも、はぐくむのは大変なんだ。自然は大事にすれば、とても大きく立派になる。森はそうして作られるんだよ」


「「はい」」


 2人とも根は素直で純粋だ。叱った自分が怨めしい。


「今日のことで僕も反省をした。そしていい目標ができたよ」


 今回は出会いのタイミングと、僕の支配力が足らなかったのが原因だ。


「だから、僕たち3人の仲も、しっかりと大事に育てよう。またこんな悲劇は起こさないよう、僕にしっかり付いてきてくれるかい?」


「「もちろんです、愛しのご主人さまぁぁ」」


 2人してガバッと抱きついてきた。

 圧力と涙で僕の体はめちゃくちゃだよ。


「「良かった、よかったよ。うわぁああぁぁああぁぁぁあんんんんん」」


 手間のかかる2人だ。でも、この様子だと、これからは安心出来るかな。

 でも、本当に良かったと思っているのは、僕の方だ。


 2人の涙に感謝します。




 ◆ピコーン(ステータスアップのお知らせです)



「えっ、えっ、なになに。何の音? 初めて聞く音が、頭の中で響いたよ」


「「どうしました?」」


 突然の事で、身体が縮こまり固まってしまった。


「しかも、『お知らせです』だなんて言葉まで……。でも、悪いことじゃないよね?」


 僕は期待と不安のなか、僕は恐る恐るステータスオープンをかけてみた。

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