第7話


 電車に揺られる事30分以上。

 その間柊生はそわそわしているようだった。


 目的の駅に着くとそこはまぁ、何も周りになくて結構な田舎だった。

 名前こそ知っていたが来たのは初めてだった為少し驚いた。イルミネーションがこんな所にあるのか?と。


「周り畑ばっかりだね」


「田舎でビックリしたでしょ?」


「ビックリはしてないけど何もないなあって」


「とりあえず行こ」


 柊生はそう言うと今度はバス停に向った。


「今度はバス?」


「歩きじゃ今日中に帰れないかもしれないから」


 柊生は笑っていたが私はだんだんと不安になってきていた。知らない土地で迷子にでもなったらどうするのだろう。


 バスに乗り、また揺られる事10分。


 その後バスを降りて歩いた。


 この時もうすでに7時前、外は真っ暗になっていた。

 

「まだ着かない?」


「あと少しだよ」


「そうは言ってもあまり景色は変わってないし少し怖いよ」


「大丈夫だよ、俺ここの土地勘あるから」


「そうなの?」


「うん。小さい頃住んでた」


「それならそうと言ってよね、迷子にならないか心配だったんだから」


「ごめんごめん。あ、着いたよ!」


「着いたってここ?」


 柊生が着いたと言った場所はだだっ広い空き地のような開けた場所だ。


 柊生が徐にカバンから取り出したのはレジャーシートとブランケットだった。

 それを地面に敷いて転んだ。


「ももちゃんも転んでみなよ?」


「あ、うん」


 言われるがまま柊生の横に転ぶと、すぐにその光景に釘付けになった。


「えっ‥‥すごっ」


「綺麗でしょ?ビックリした?」


「ビックリだよ本当」


 目の前に広がっていたのは満天の星。

 勝手にイルミネーションだと思っていた自分が恥ずかしかった。


「ももちゃんに絶対見せたいと思って」


「めっちゃ綺麗だね」


 私たちはしばらく眺めていた。


「そう言えばももちゃんって大学行くの?」


「私は大学には行かずに、自分の店を出したいなって思ってるんだ。その為にバイトしてお金も貯めてるし」


「それってクレープ屋?」


「そうだよ」


「そうなんだ‥‥」


「どうしたの?」


「俺、決めた!ももちゃんの店で働くよ!」


「えっ?ちょっと待って。私人雇うつもりはないよ?」


「そう言わずにさ、そしたらずっと一緒にいられるし」


「私は一人でするつもりだし、最初は給料払える余裕もないよ。それに自分のしたいこと見つけた方がいいって」


「これが自分のしたいことだよ?」


「とにかく、それは無理だと思う。ごめん」


「なんで?じゃあ給料はいらないから‥‥ダメ?」


 また子犬感を出してきた。でもここでうんと言ってしまうと少し面倒な事になりそうだから流されてはいけない。


「給料あげないってのもあれだから、お店が軌道に乗ってから考えても遅くないんじゃないかな?」


「そうやって曖昧にして逃げるつもりでしょ」


「逃げてはないよ。でも話が唐突過ぎない?」


「だって今思いついたんだもん」


「だから、とりあえずこの話は保留ね?」


「俺が嫌なの?」


「なんでそうなるの?」


 最悪だ。


 最初の感動を返して欲しいくらい今すっごく面倒くさい。


「もういい」


 柊生はそう言うと、私がまだ座っているのにもかかわらずシートを片付けてしまった。


「柊生?」


 私の問いかけにも答えず黙々と帰る準備をしている。私は諦めて柊生に黙ってついて行った。結局帰りのバスでも電車でもふてぶてしかった。正直幼稚過ぎて呆れていた。


「今日はありがとう。綺麗な星を見せてくれて」


 呆れていても一応連れて行ってくれた事には変わりない。


「いいよ」


 柊生はボソッと呟くとそそくさと帰って行った。


 本当はあの後どうするつもりだったんだろう。こっちに戻ってきてご飯を一緒に食べて、カップルらしい事をしたかったのに。


 なんだか、残念な気持ちになった。




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