002:最強の男、なぜかパーティを追放される②


「神の加護を受けられなかった落選者なんて勇者パーティにはいらないんだ!」


 ツバを飛ばしながら熱く語るクリムの姿に、ヴィータは少しだけ呆れた。

 何を今さら、と。


「だが俺だってモンスターを倒せるだろう。何も問題ないハズだ」


 小さな田舎町に現れた素手でモンスターを狩る異端の少年。

 それがヴィータだった。


 ヴィータはすぐに有名になり、剣術至上主義の冒険者たちの中で世にも珍しい「打撃の使い手」として冒険者になった。

 そして噂にたがわぬ実力が勇者パーティの目に留まり、勧誘を受けたのである。


 それなのに自分たちから誘っておいて、用が済んだらポイと捨てる。

 ひどい話だがクリムたちには関係なかった。


「バカが! 剣の方が拳より強いんだよ!! 常識だろうが!!!!」


「いや、でも俺はお前たちが倒せないモンスターも倒せるし……」


「だまれだまれぇ!! 人類をモンスターの脅威から救うのは神から授けられた魔法剣だけだ! 魔法剣を持たない勇者など勇者じゃない! お前は真の勇者じゃないんだよ!! そんな偽物はこの勇者パーティにいてもらっては困るんだよ!!!!」


 そう言ってわめき散らし、もはや取り付く島もない。

 もうヴィータの話を聞く耳なんて持っていないのである。


「クリム様の言う通りよ! 落選者のくせに生意気なのよ!」


「そうよそうよ!! 落選者のくせに!!」


「死ね!!!!」


 仲間達も話が通じる様子ではなく、ヴィータは「やれやれ」と頭をかいた。

 これ以上は時間の無駄だろう。


 これまでヴィータはクリムと双璧をなす勇者パーティのアタッカーとして、常に冒険の最前線で戦い続けてきた。


 魔力さえあれば何度でも復活する魔法剣と違い、ヴィータの拳は生身の肉体である。

 それがボロボロになっても仲間たちのために一歩も退かずに戦い続けてきたのである。


 知略、武術、戦略、筋肉……。

 誰よりも人の痛みを知るからこそ、仲間が傷つかないように努力と工夫を重ねてきた。


 仲間への献身と自己犠牲の精神。

 その気高い心の輝きを、誰かが呼んだ。


 勇者の右腕。

 あるいは、黄金の勇者と。


 それはヴィータにとっての誇りでもあった。

 神の加護を与えられなかった落選者である自分が認められた証でもあったのだ。


 だが、それすらもクリムたちは否定する。

 ヴィータは「仲間だと思っていたは自分だけだったのか」と悲しい気持ちになった。


「……わかった。今まで世話になったな」


 幸いなことにこれまでの冒険の報酬で蓄えはそれなりにあるし、勇者パーティの冒険者としての名も知れている。

 冒険なら別のパーティでもできるし、仕事に困る事はないハズだった。


 だったらもう追放でもなんでも好きにしてくれと、ヴィータは机に広げられた書類にサインすることにした。

 そして飲んだ酒代を机に置いて席を立つ。


「おい、待てよ」


 クリムがそれを引き留めた。


「これまで世話してやった俺たちへの感謝の気持ちくらいないのか?」


 なんとクリムは身勝手な追放に加えて、さらにヴィータから有り金を巻き上げるつもりなのである。


 ヴィータは「勧誘してきたのはそっちだろうに」という当たり前の意見を口に出さずに飲み込んだ。


 勇者と呼ばれる男のなんと器の小さいものか。

 そう呆れながらサイフを置いた。


 こんなものは払う義理も義務もないただの恐喝である。

 本当なら無視しても良いのだろうが、断って余計なモメ事になるくらいならサイフを渡す方が安いと判断したのだ。


 人類を守る勇者パーティの一員として、壊れるほどに拳を振るってきたというのに、いざ役目を果たすとその終わりはあっけないものである。


 もう、二度とあいつらと関わることはないだろう。

 むしろ、こちらから願い下げだ。


「よーし、今日は勇者さまのおごりだぞー! みんな飲め飲めー!!」


「うおおおおおーーー!! さすが勇者パーティだーーー!! 器がデケェーーー!!」


 ヴィータはそんな事を考えながら、人の金でバカ騒ぎを始める酒場を後にしたのだった。

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