演武
長万部 三郎太
完全に折れた
空手歴二十余年を超える我が身とて、まだまだ精進すべきところがある。
路上の野試合でも無敗を誇るわたしが、師範代として久々に表舞台へ出ることとなった。約十年ぶりとなる大会出場である。
とはいえ、実技演武というものの所詮はショーである。
据え置きされた氷柱を砕き、瓦を割る。見ている側は多少盛り上がるかもしれないが、反撃してこない『動かぬモノ』相手に本気にはなれない。
珍しく大会に出てはみたが、結局はこんなものか。
一抹の虚無感に囚われたものの、最後の演武を前にしてわたしは気が変わった。
「バットの中身はくり抜いてあるんじゃないのか!?」
〆のバット折りを控えたところで、客席いたある男のヤジが心に波紋を広げたのだ。
わたしの下段回し蹴りは3本束ねたバットを折ることができる。
ヤジを黙らせてやろうと思ったわたしは、急きょ5本のバットを用意させた。
5本は正直、未知の領域だ。
心配する門下生に目で合図すると、わたしは構え丹田に力を込めた。
「セェア!!」
見事に5本のバットは砕け散った。
折った、折ってやった。
完全に折れたと確信したわたしは、ヤジを完全に収めるべくその場で逆立ちをし、観客に余裕だぞと言わんばかりのパフォーマンスをしてみせた。
沸き立つ客席。
わたしは身体能力の高さを見せつけるべく、逆立ち姿勢のまま倒立歩行で会場をあとにした。
普通に歩いてしまうと足の骨を折ったことが皆にバレると思ったからだ。
(筆休めシリーズ『演武』 おわり)
演武 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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