疲労宴

@noberu

第1話

「あー疲れた!」

0歳と2歳の子どもを持つ久美は湯船に浸かると思わず、心の声が溢れ出た。

久美から疲労感が溢れ出るのも無理はない。何故ならば、彼女は1週間ぶりに一人でゆっくり風呂に入る時間を得たからだ。

今日は日曜日。旦那が子どもをお風呂に入れたので、久美は一人でゆっくり入ることができる。久美の旦那は平日の帰りが遅く、21時を超えることなんてザラである。仕事が忙しいのはわかるが、久美は正直なところ旦那にはもっと育児に参加して欲しいと思っている。

「さあ、頑張るか!」

久美は自分自身を鼓舞した。

このお風呂から出ると自分の時間というものはなくなる。

家族の為に家事や育児に奮闘するのだ。

明日から月曜が始まる。

月曜日の朝は次男の泣き叫ぶ声から始まった。

「うぇーん」と0歳の次男が朝5時半に泣き始め、それにつられ、2歳の長男が眠そうに起きる。

つまり、2人とも不機嫌な状態から朝がスタートするのだ。

旦那は起きもせず、グッスリ眠っている。

その眠り続ける姿は、久美に「育児はお前の仕事だ」と圧力をかけているようであった。

久美はその旦那からの無言のメッセージに渋々従い、重い身体を起こした。

「よいしょ」

久美は次男を抱っこし、長男の手を引き、寝室から出て行く。

そして、寝室の扉を強く「バタン」と閉じる。これが久美のささやかな旦那への攻撃だ。

久美が子どもたちのオムツ変え、ご飯の準備などをしていると、だるそうに旦那が寝室から出てきた。

「おはよう。朝から2人とも元気だな」

旦那は子どもたちにそういうと、洗面所に向かった。

「あーあ、私だってまだ洗面所で顔も洗ってないのに、起きてすぐに洗えるなんて良い身分ね」

久美は心の中で呟いた。

最近、久美は旦那の無神経な行動が目について仕方ない。

彼女の疲労の原因の一つが旦那であることは間違いないのだ。



旦那を子どもたちと見送った後、朝ごはんの片付けや子どもたちの着替え、公園に遊びに行く準備、作り置きなど、家事の洪水が久美を襲う。

そんな久美が日中に唯一ホッと出来るのが、お昼寝の時間だ。

今日は幸運にも長男と次男がほぼ同じぐらいの時間から昼寝を始めた。

こうなると、少しばかりホッと出来る時間が長くなる。

久美は嬉しくなり、久しぶりにコーヒーをドリップで淹れることにした。

まだ次男に授乳しているとは言え、もう回数も減り、一杯のコーヒーぐらいのカフェイン量ならあまりに気にしないで飲めるようになっていた。

「あー美味しい」

久美は思わず、喜びを口にした。

元々、コーヒー好きだった久美は次男が産まれてから半年以上、カフェインの過剰摂取を気にし、コーヒー断ちをしていた。

やっと最近になって飲めるようになったお昼寝の時のコーヒーは新たな楽しみの一つだ。

コーヒーを半分ほど飲み終えると、久美は郵便物を一時的入れておく郵便物ボックスから、チラシなどの確認を取り出し確認し始めた。

いつものピザのチラシ、不動産のチラシの中に、「疲労宴のご案内」と書かれた封筒が混じっていた。

久美は「疲労宴」というワードに疑問を感じながらも封筒を開けた。


佐藤久美 様


毎日、お疲れ様です。

私は株式会社ノーヒロウの広瀬と申します。

日々、育児や家事に奮闘し、お疲れのことでしょう。

そんな久美様の為に、私たちは疲労宴を用意しました。

是非、疲労宴に参加頂き、日頃の疲労を解消してください。

もちろん、今回の疲労宴は無理です。

もし、久美様に参加の意思があるようでしたら同封の返信ハガキに必要事項を明記の上、ご返信ください。

久美様の参加をノーヒロウの一同、心待ちにしております。


以上


「なんだこりゃ?」

久美は思わず声が出た。

それにしても、何故ノーヒロウの連中は私が育児や家事で疲れ果てていることを知っているんだ?

久美は少し気味悪く感じながらも、返信用ハガキを取っておくことにした。


翌日、久美は幸運にも子どもたちが良いタイミングで昼寝をしてくれたのでコーヒータイムをとることが出来た。近所に住んでいる母がくれたバームクーヘンと一緒にコーヒーを楽しむことにした。

その時、ふと昨日の「疲労宴」について気になり出した。

手元のスマホで「疲労宴」と検索してもヒントになりそうな情報は得られなかった。

「確かに最近疲れが酷いんだよなぁ」

久美はこの疲労感がどうにかなるのなら、疲労宴というものに騙されたと思って行ってみても良いのではないかと思った。

しかも、無料だ。

久美は気づくと返信ハガキに記入を始めていた。

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