孤独青年と捻くれ彼女。

首領・アリマジュタローネ

孤独青年と捻くれ彼女。

青年「総理が変わるんだって。なんか病気らしい」



彼女「ふーん。なんか他人事だけど、可哀想だね。国の未来を良くしようと頑張ってきたのに、結局国民から嫌われて体調を崩してさ。ほーんと可哀想」



青年「子供の頃はよく『スポーツ選手になりたい!』と同じ括りで『総理大臣になりたい!』って夢も見たもんだけど、現代だと誰も憧れないわな。日本一の嫌われ者になるだけだし」



彼女「君は総理大臣になりたいと思うタイプじゃないでしょ」



青年「ああ、そうだな。強いていえば”ゆーちゅーばー”かな」



彼女「笑える」



青年「おい、ゆーちゅーばー舐めんなよ。マグロの切り身を無銭で食ったり、マスクもせずに大声で怒鳴り散らしてコロナまき散らしたりして、しまいには刑務所送りにされたりするんだぜ?」



彼女「アレは例外でしょ」



青年「正真正銘の悪党だ」



彼女「私は彼を応援してるけどね」



青年「気ぃ狂ってんのか」



彼女「……随分、前からね。あの人は無敵の人でしょ。失うモノなんて何一つとしてないから、ただ自らの憂さ晴らしのためだけに暴れている。そりゃ守るべきモノを持っている人間からしてみれば迷惑ならぬ、害悪でしかないけれど、社会的弱者からしてみれば英雄のようにも思えてこない? 彼はジョーカーなんだよ。時代が少しでも違っていたならば、彼は革命家にも成り得た。少なくとも私のような弱者にあそこまで大暴れする勇気はないから」



青年「あれを勇気と呼ぶのか? ただのバカだろ」



彼女「愚者と切り捨てるのなら話はそこまでだけど、少なくともネットの隅っこで愚痴を吐き捨てている連中よりかは遥かに社会に貢献できていると思う。一時的なムーブメントを巻き起こしたからね。じゃあ、聞くけど、芸能人や著名人・成功者や政治家に文句を言うだけで、自分からは何も行動を起こさない人間にさ、世界を変えられると思う? 人々に幸福を与えられているとでも? あの第二次世界大戦を引き起こした独裁者でさえ、国民投票によって選ばれて誕生したんだ。そして彼は求められたから行動した。あれは悲劇だったけれど、もしいい方向に変わっていたら彼も英雄の仲間入りを果たしていた」



青年「ヤツを擁護するのか?」



彼女「まぁね。──私はひねくれものだからさ」



青年「……そうか」



彼女「君も別方向に捻くれてるけどね」



青年「違う。俺は俺なりのルールを守っているだけだ。社会が間違っているだけ。俺は悪くないし、周囲の人間はバカばっかり。くだらねぇ傷の舐め合いを繰り返して、同じように群れるだけ。自分に正直に生きてるだけなのに『人の気持ちを考えない』『デリカシーがない』だのと、ムシャクシャするぜ。大体、人の考えは千差万別あるのに、同調圧力に潰されて常識とやらを上手くはみ出さずに誰かに迷惑をかけず、更にはそれを人に押し付けるだのと馬鹿馬鹿しくて反吐が出るわ。いい加減に大人になれって? うるせぇよ」



彼女「傲慢でかつ幼稚。そりゃ友達もできないよ」



青年「大いに結構。それでくたばれるのなら最高だ」



彼女「ふふふ」



青年「どーせ人間ってのはいつか死ぬんだぜ? 死を念頭に置いて生きていくのなら、他者の存在なんて邪魔なだけだろ。やりたいようにやってくたばればそれが本望」



彼女「君も迷惑”ゆーちゅーばー”とおんなじだね」



青年「根っこの部分ではな。ただ、俺はあいつが嫌いだ。何故かというと人々から注目されているから。教室でつまんないのに粋がっている陽キャラを見ているようで、気分が悪くなる。嫌われるってことは関心がある証拠だろ? 俺は誰かから関心を持たれたことすらない。空気のような存在だ。居ても居なくても同じ、生きているのか死んでいるのかも不明瞭な動く屍だ。両手を伸ばして、口を開きながら、死というゴールに向かって進むゾンビマンさ。太陽の光なんざ浴びたら、一瞬で消え失せてしまう」



彼女「そうやって思いたいだけじゃなくて? 自己顕示欲が爆発し過ぎると、わざと悪い方向に走りたくなったりするからね。ヤンキーだってそうじゃん。不満の奥には寂しさが眠っている。非行少年の多くは愛情不足だと言われている。君がもし守りたいと思う存在に出逢う事があったのならば、そのような考えを抱かなくなる可能性だってある」



青年「なんだよ。くだらねぇ愛とやらでも説くつもりか?」



彼女「まぁそうだね。大事だよ、愛も」



青年「恋愛なんて馬鹿馬鹿しい。馬鹿のする行為だ」



彼女「恋愛の話じゃない。愛だよ。こういうと頭のいい連中はすぐに論理的な言葉を並べ立てて科学的に否定してくるけど、そんな話をしたいんじゃないの。単なる幸せになるための哲学の話をしている。アドラー心理学でもなんか言ってたじゃん。……忘れたけど」



青年「そこ忘れるのかよ。大事なところだろ」



彼女「うっかり」



青年「可愛くないんだよ」



彼女「……はぁ。冗談でもそんなこと言われると傷付くからやめてくれる? 私、女の子なんだよ」



青年「だからなんだよ。性別なんて関係ねぇーだろうが。男女平等だろボケ。すぐにそうやって都合のいいときだけ女子アピールをして反論材料に利用してくんな」



彼女「そんなんだからモテないんだよ」



青年「はぁー!?」



彼女「そうやって私にアピールしてきてるのが見え見えなの。『俺は他とは違う。可愛いだなんて思っていたとしても絶対に告げてやらない』そういう素直さのない変なプライドが女子にウケないって、その歳になってもわからなかったわけ? あの、言っておくけど、君みたいな面倒くさい人間に私が好意を抱くとも思った? ラブコメ世界じゃないんだからさ。私だって、優しくて面白い素直でそれなりに顔もカッコいい人に好かれたいという気持ちも持ってるわけ。君じゃなくてね」



青年「……」



彼女「ほら、またすぐに拗ねる。子供じゃないんだから。そういう部分を『可愛い』と思ってくれる心優しい女の子と付き合いなって。あぁでもその前に、その、破滅的思考は捨てたほうがいいかも」



青年「……帰るわ」



彼女「あら、寂しい」



青年「……」



彼女「帰らないの?」



青年「……引き止めろよ。マジで帰るぞ」



彼女「止めて欲しいの? 一緒に居て欲しいって、そんなことを私が君に告げると思う? 私だってね、面倒くさい人間なんだよ。面倒くさい人間同士がこうやって愚痴を吐いているのだって、社会にとっては無生産的ななんの意味もない退屈な日常の一つなの。君が最も嫌悪する”馴れ合い”ってやつ。わかる? ネガティブな人間が交流を深めたとて、その先にあるのは醜い共依存の関係だけ。メンヘラがメンヘラと上手くいくケースなんてあるわけがないの。破滅するだけ。私は幸せになりたいの。君と破滅したいワケじゃない」



青年「好き勝手に言いやがって。なんで俺とお前の未来が暗いものだって勝手に決めつけるんだよ」



彼女「君との明るい未来が想像できないからだよ」



青年「違うな。お前も俺と同じで怖がっているだけだろ。愛だの、恋だのと語る割には自分からは行動を起こさずに俺と同じように愚痴を吐き捨てている。怖いんだろ? 幸せになる自分を想像できなくて、自分なんてちっぽけなモンだと思っているから、人を妬んでばかりいる。賢いふりをして、俺にマウントを取って、一時的な優越感に浸って、根っこの部分では愛に飢えている。変わりたくて、でも変われなくて、諦めと葛藤の中でもがき苦しんでいる。逃げてんだよ。俺と同じだ」



彼女「勝手に決めつけないで!」



青年「こっちのセリフだ。お前がやったことを俺はやり返しただけ」



彼女「君と喋っていたらイライラする! もう帰る」



青年「帰るなよ」



彼女「引き止めないで!」



青年「イヤだね。もう少し一緒にいたいから」



彼女「……気持ちが悪い」



青年「よく言われる」



彼女「その自分に酔った感じが嫌い。社会のことなんでもわかってますよーって感じが嫌い。格好つけて本音を言っているのか言っていないのかわからない感じが嫌い。嫌い嫌い嫌い。大嫌い!」



青年「お互い様だろ」



彼女「はぁ……。君と話していると心の奥が揺さぶられる」



青年「それは恋じゃねぇかな?」



彼女「夜眠るときに腹が立ってきて枕を殴るときもある」



青年「まさしく恋じゃねぇかな?」



彼女「これが恋だって言うんだったら私はこんな恋、一生要らない」



青年「大袈裟だな」



彼女「はいはい、わかったわかった。じゃあもう恋でもなんでもいいよ。でも、私は君に生理的嫌悪感を抱くことが多々あるから、それだけは覚えていて」



青年「なにそれ、めっちゃ傷付いたわ。忘れるわけかよ」



彼女「気持ち悪いの。男性の性的に人を見てくるあの目が……。結局、男なんていつもそう。変な妄想だけを抱いて、くだらない本能に動かされて、性行為さえできればよくて、私たちの気持ちなんて考えもしない。自分のプライドを守ることだけに精一杯。酷い言葉で人を傷つける。最低な人種だよ」



青年「女性だってそうだろ。すぐにヒステリックになって、言ったことをコロコロ変えて、嫌われないようにと思わせぶりな態度をとる。それが社会で潤滑に生きるための秘訣なのかもしれないけど、それでどれだけモテない男たちが傷ついてきたのか少しは考えろよな。変な男とばかり付き合って、優しい男をヘタレ扱いして、それで寂しくなって甘えて依存する。めんどくせーよ」



彼女「男性がすぐに恋愛に話を持っていくからだよね。女性は別にやろうと思えば、結婚なんて誰とでもいつでもできるし」



青年「したがる男性が近頃いるとも思わねぇがな。晩婚化の一番の原因はインターネットの普及で女に対する理想を男たちが抱かなくなったからだろ」



彼女「確かにそうかもね。一理ある」



青年「面倒くさくなって話を終わらせんな。俺はお前とこうやってバカ話をするのが楽しいんだよ」



彼女「……キモっ」



青年「よく言われる」



彼女「帰らないの?」



青年「こっちのセリフだ」



彼女「早く帰ってよ、キモいから」



青年「そういうと帰りたくなくなる」



彼女「じゃあ、私が帰ろっと。寂しがれー」



青年「独りは慣れてる」



彼女「……なんでそういう事いうかな」



青年「お前がそういう態度を取るからだろ」



彼女「わかった。帰らないであげる」



青年「よかった」



彼女「笑える」



青年「笑ってくれてありがとう」



彼女「君と一緒にいるのはね、いますごく寂しいからってだけ。君を利用して心にぽっかりと空いた穴を埋めてるの。正直、会話してくれるのなら相手は別に誰でもいい」



青年「ビッチかよ」



彼女「身体を差し出さないだけでね。でも、こういう女の子はたくさんいる。こういう拗らせ女子が巷には溢れている。男の子にはね、こういう面倒くささを許容して欲しいの。こういう気分屋なところも愛してほしいの。本人たちも気が付いてるけど、やめれないの。どうしたって感情的に行動してしまうことが多いから。いい? わかった? 奴隷くん?」



青年「誰が奴隷だ」



彼女「好きになったって言うのなら、私のわがままを聞いてね。トリセツってやつだから。もう一度、言うけど私は──捻くれものだから」



青年「知ってる。それを許容することが愛ってのも知ってる」



彼女「ふふふ」



青年「あはは」









彼女「メンヘラかよ、気持ち悪い」



青年「お前がやってんだろ」





彼女「頭沸いてる男女ってこうやって愛を語ってんの? 臭すぎて吐き気する」



青年「だから愛は要らないって言っただろ。俺もやってて気分が悪くなったわ」





彼女「くだらない。なんで君と恋愛ごっこをしなくちゃならないのかねぇ」



青年「まあ、いいだろ。たまには。恋愛脳のバカどもの思考を想像して遊びに興じるのも悪くない」





彼女「君と私が付き合うわけないのにね」



青年「……お、おう。確かにな」





彼女「さて、帰ろっか。日も暮れてきたし」



青年「そうだな」





彼女「……」



青年「……」



彼女「……」



青年「あ」



彼女「ん?」





青年「明日もまたここ来るか?」



彼女「あー……うん。気が向いたら」



青年「おけおけ。俺は大体いるから。ぼっちだからな。気が向いたら来てくれ」



彼女「あ、うん……」





青年「じゃあな」



彼女「うん。またね」



青年「また」



彼女「ばいばい」



青年「おう!また」









青年「ふぅ……」





















青年「風俗でも行くか」

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