横島恋歌と初〇〇──③

 振り返ると、2人組の男が恋歌たちに絡んでいた。

 イケメンではあるが、見るからにチャラい。

 けどもやしみたいに線が細いな。ちゃんと肉食ってるか?


 恋歌は完全に怯えちゃって、九鬼に至っては嫌悪感丸出しの顔をしていた。



「……なんですか、あなたたち」

「何ってことはないじゃん。君たちかわいーなーと思って」

「一緒に遊ぼうよ。ね?」

「結構です」



 九鬼が恋歌を連れて離れようと手を取り、2人から離れる。

 が、1人が回り込んだ。



「そんな冷たいこと言わないでさ、少しでいいからっ」

「しつこいと警察呼びますよ」



 おぉ。九鬼、堂々としてる。多分こういうことが多いんだろうな。

 でも2人組の男はしつこく付きまとっている。あっちもあっちで、あしらわれるのには慣れてるみたいだ。



「荷物たくさんあるじゃん。疲れてるでしょ、持つよ」

「触らないでください。気持ち悪い」

「……あ?」



 あ、やべ。男の方の空気が変わった。

 威圧感バリバリで、九鬼を威嚇してる。

 さすがに怖くなったのか、九鬼もビビってしまったみたいだ。

 ……って、あれマジで手を上げようとしてないか……?



「テメェ……ちょっと可愛いからってちょーしのんじゃねぇよ!」



 ッ! やばい!

 グラサン装着! マスク装着!

 あーもう! なるようになーれ!






「足がぁ……滑ったあああああああああ!!!!」






 喰らえ渾身のドロップキック!!



「ほべっ!?」



 手を上げようとしていた輩の脇にドロップキックをかますと、軽く数メートル吹き飛んだ。

 初めてやったけど、意外と飛ぶもんだな。



「なっ、なんだテメェ!」

「通行人Aでーす!」

「ぶち殺す!!」



 あ、やべ。ヘイトがこっち向いた。

 だがしかし! こちとら趣味は筋トレだぞ! 動けるオタク舐めんな!

 プライドもへったくれもなく背を向けて逃げる! ふはは! 体力には自信あるんだ! 無駄にな!



「待てやゴルァ!」

「ぜってー逃がさねぇ!」



 案の定食い付いてきた。

 脚は速い。短距離走なら向こうに分がある。

 でも運動不足なのか、それとも喫煙で心肺機能が弱ってるのか知らないけど、直ぐにバテて距離が開いた。


 よし、ここまで来たら、こいつの出番だ。


 角を曲がったところでマスクとグラサンを外し、買っていた服を上から着る。

 白のポロシャツの上から黒のジャケットを羽織って、何食わぬ顔で元来た道を戻る。

 と、案の定2人は俺に気付かず、鬼の形相で走っていった。



「……ぶはあぁ〜。あー、しんど」



 膝が笑いだしてきた。慣れることはするもんじゃないね。

 情けない? ふっ、心優しいオタッキーな陰キャにしては、勇気を出した方だろ。

 それに多分、2人にはバレてないだろう。バレたら面倒くさそうだけど。

 あ……そうだ、2人は大丈夫かな。……大丈夫か、きっと。

 それにあんなことがあったんだし、もう解散するだろう。さっさと帰って、恋歌を待っててやるか。



   ◆恋歌side◆



 今日は待ちに待った、初友達との初お出掛け。

 最初は緊張しちゃったし、全然うまく喋れなかったけど……九鬼さんがいっぱい気を使ってくれたおかげで、クレープを食べるときはすごく自然体でいられた。

 すごく、すごく楽しかった。

 友達と遊ぶってこんな感じだったんだって、感動してた。


 それなのに……人生初のナンパを経験してしまった。

 怖かった。何もできなかった。

 九鬼さんは慣れた感じであしらってたけど、男の人はキレて手を上げようとしてきた。

 ウチが守らなきゃっ。

 そう思ったのに……足が竦んで、動けなかった。

 このままじゃ大変なことになっちゃう。

 そう思っていたら……。



「足がぁ……滑ったあああああああああ!!!!」



 ヒーローが、現れた。

 男の人を蹴り飛ばして、煽って、引き連れて行ってしまったあの人。

 マスクとサングラスをしてたから、顔まではわからない。

 でも……声と動きで、誰だかすぐにわかったよ。



「十夜……」

「やっぱりあれ、常澄くん?」

「うん、絶対」



 九鬼さんも気付いてたみたい。

 わかりやすいもんね、十夜って。



「常澄くん、大丈夫かな……?」

「大丈夫だと思うよ。昔から、逃げ足が自慢だったから」

「……ぷっ。それ自慢じゃないね」

「本当」



 緊張が解けたからか、ウチと九鬼さんは心の底から笑った。笑いが込み上げてきた。

 また、十夜に助けられちゃった。

 ウチ、ずっと十夜に助けられてばっかだ。

 ……何か、恩返ししたいな……。



「ねぇ、恋歌ちゃん。十夜くんにお土産買っていかない?」

「お土産?」

「うん、助けてもらったし。あ、でも恩返しとかじゃなくて、普通にお土産として渡した方がいいと思うんだ。男の子って、かっこつけたいと思うし」



 なるほど……さすが九鬼さん。気遣いの鬼。九鬼だけに。なんちゃって。



「そうだね、買って行ってあげようか。……円香、ちゃん」

「! ……えへへっ。うん、行こうか、恋歌ちゃんっ」



 九鬼さん改め、円香ちゃんがウチの手を握ってくる。

 ウチもそれを握り返すと、商業ビルの中に戻って行った。


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【作者より】

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