横島恋歌の初〇〇──②

 クソッ、思いの外時間を食った……!

 急いで2人の後を追う。こっちの方に向かってたはずだ、多分。

 商業ビルに入り、周りを見る。

 あれだけの美少女2人だ。間違いなく人目を惹くはず。



「見て見て、あの子たち。めっちゃかわいー」

「モデルさんかな……?」



 ん? あ、いたっ……!

 ちょうどエスカレーターを登ってる。よかった、遠くに行ってなくて。

 よし、見守り再開だ。


 俺もエスカレーターに乗り込み、付かず離れずの一定の距離を保つ。

 どうやら3階に行くらしい。3階はレディースメインの場所で、男1人だとなかなか入りづらいが……仕方ない、行くか。


 3階で降りると、2人はキラキラしているコスメショップに入って行った。

 近くのハンカチショップに入って、物色する振りをしつつ様子を伺う。



「お〜。このリップめっちゃかわいい……!」

「恋歌ちゃんなら、こっちの少し派手な方でも合いそうだよ」

「そ、そっかな? ウチ、あんまりメイクしないんだよね。リップと、ちょっとしたファンデくらいで」

「え。マスカラとか、アイシャドウは?」

「あ、アイシャドウはちょっとだけ……まつ毛は自前です」

「本当!? マッチ棒めっちゃ乗りそうなくらい長いのに!?」



 お〜……? なんか女子っぽい会話をしてる。あの恋歌が。

 これが、中学の頃に頑張って勉強した成果ということか……なんか泣けてきた。

 確かに、恋歌がメイクをがっつりしてるところなんて、あまり見たことがない。

 まだ太ってない小さい頃から、近所でも有名なくらい可愛いとは言われてたらしいけど、それくらい整った容姿ってことか。


 その後も、恋歌はまだ緊張と戸惑いがなくならず、九鬼がそれをリードする形で買い物が進む。

 でもそのおかげで、恋歌も少しずつ緊張が和らいでいるように見える。

 さすが九鬼。こんなにも早く恋歌の心を開くなんて。


 2人はコスメショップを出ると、今度は服屋に入ってあれこれ物色する。

 といっても買わずに、次の店、次の店へと入っていった。

 何してんだろう、あれ。

 すると、5つくらい回ったところで最初の店に戻り、2人ともいくつか服を買った。

 ……あ。もしかして、同じような服を見て回って、1番安いものを買ってる、とか? バイトしてない恋歌に合わせて?

 な、なんてスパダリ……こりゃモテるわ。九鬼さん、これからは師匠と呼ばせてもらいます。


 かく言う俺も、服のジユーで少しだけ服を買ったけど。

 なげーんだもん、あの2人の買い物。


 買い物を終えた2人は、今度は駅前に来ていたクレープ屋でクレープを買っていた。

 いいな、クレープ。美味そう……。



「んーっ! この丸ごとバナナ3本チョコバナナクレープおいしーっ! 九鬼さんは何買ったの?」

「私はキャラメルぎとぎとデンジャラスクレープ。めっちゃめちゃうままだよ。食べる?」

「い、いいのっ……!?」

「うん。私にも恋歌ちゃんの、一口ちょーだい?」

「う、うんっ……!」



 九鬼が恋歌のクレープを一口ぱくり。

 そして、恋歌も九鬼のクレープをぱくり。



「「ん〜〜……!」」



 美少女がクレープを食べさせあってる姿……ほっこりする。

 なるほど、これがてぇてぇか。

 てぇてぇを見ながら飲むコーヒーのなんと美味いこと。

 すると、九鬼がほにゃほにゃ顔の恋歌を見て頬を緩めた。



「それにしても、よかった」

「ほぇ?」

「恋歌ちゃん、ずっと緊張してたみたいだから」

「ぁ……確かに今、緊張してないかも……」

「ふふ、友達同士なんだもん。緊張なんてしなくていいよ」

「そ……うだよね……うんっ。ありがとう、九鬼さん」



 お、おお……恋歌から警戒心が消えた。

 ずっと見てきた俺だからわかる。あれは素の恋歌だ。



「じゃー、まず私のこと、名前で呼んでみよっか」

「ハードルがエベレスト」

「何その例え」



 ワーワー、キャーキャー。

 ……もう、俺が見守ってなくても大丈夫か。

 さあ、帰って九音たんのアーカイブでも──






「ねえねえ君たち、今暇?」

「暇なら俺らとお茶しない?」






 …………。

 どうやらまだ、帰れそうにないらしい。

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