横島恋歌の初〇〇──①
「はぁ〜……」
「んー、十夜おかえりー」
「ぉわっ」
部屋に入ると、いつの間にか恋歌が俺の部屋でゴロゴロしていた。
好きに入っていいとは言ったけど、こんな朝っぱらから来るとは。
「って、いいのかよ、ここにいて。今日九鬼と遊ぶんだろ?」
「うん。九鬼さんから午後集合って言われたから、全然だいじょーぶ」
ベッドで脚をパタパタさせて漫画を読んでいる恋歌。
それに当たらないようにベッドに座ると、俺の膝に頭を乗っけてきた。
俗に言う膝枕である。
「どこ行ってたん?」
「ちょっと散歩に」
「ふーん……何か悩んでるの?」
恋歌がじーっと俺を見上げる。
なんでも見通し、とでも言いたげな目に、思わず目を逸らしてしまった。
「なんでわかる?」
「わかるよ、幼馴染だもん」
「この1年関わりなかっただろ」
「うっ。そ、それは言うなー」
むにーと頬を引っ張ってくる。事実なのに。
と、恋歌は引っ張っている頬を包むように撫でてきた。
まるで、弟をなだめる姉のように。……夜美にそんなことされたことないけど。
「1年話さなかったけど、幼馴染のことくらいわかるから。何かあったか、話してみ?」
「……ありがとう。でもこれは、恋歌にも話せないことだから」
「幼馴染でも?」
「幼馴染でも」
恋歌の頭を撫でると、ジト目で睨んできた。
俺が誤魔化すときの癖も見抜かれてるみたいだ。
「……わかったよ。でも何かあったら、絶対そーだんしてよ」
「わかってるさ」
恋歌は満足したのか、そのまま漫画に戻った。
恋歌と九鬼が本当の意味で友達になれるかどうかは、俺が気にすることじゃない。というか、俺が口出すようなことじゃない。
2人のきっかけは作った。
そこからどうなるかは、2人の今後に掛かっている。
だから俺は、それを傍で見守るだけでだ。
◆
「く、く、九鬼さんっ。お、お待たせ……!」
「あ、恋歌ちゃん! ううん、私も今来たところだよ」
恋歌が駅前の待ち合わせ場所で、九鬼と合流する。
そんな2人を、変装して見守る俺。
はい。言った通り、(物理的に)傍で見守ります。
2人を紹介して、はい終わりだなんて薄情なこと、できるはずないだろ。
特に恋歌の想いは誰よりもわかってるつもりだ。
だから何があったとしてもすぐにサポートできるように、こうして変装してきたんだ。
慣れないワックスで髪を整え。
サングラスで目元を隠し。
マスクを着けている。
完璧な変装。これなら絶対ばれないだろう。
決してストーカーとかではない。どちらかと言えば守護霊。否、恋歌の守護神といっていいレベル。
……ダメか。ダメだね。世界中の守護神様、ごめんなさい。
恋歌はまだ緊張しているらしく、目を高速で泳がしている。
頑張れ、恋歌。俺が見守ってるからな……!
「あ。く、九鬼さんのそのトップス、もしかして新作?」
「おー。恋歌ちゃん、わかる? そうそう。今日のために買っちゃったー」
「い、いいね。そのブランド結構高いから、う、ウチだと手が出なくて」
「ば……バイトしてるからね、私は。ありがたいことに、お金持ちなんです」
「そ、そう、なんだ。えへへ……」
「恋歌ちゃんはバイトしないの?」
「う、ウチは……」
うーん……恋歌のやつ、まだ九鬼の前だと歯切れが悪いな。
それもそうか。見た目はギャル。中身はド陰キャだもんな、恋歌は。
一応、九鬼が気を使ってあれこれ話を広げてくれてるけど、それでも話が弾んでるって感じはしない。
俺がいないとこうなるのは目に見えてた。でもこれは、人と話すのが苦手な恋歌の練習も兼ねている。俺が口出しするようなことは、してはいけない。
……あ、2人が移動した。俺も、付かず離れずの距離を保っていこう。
「あー、すみませんお兄さん」
「はい?」
あ……ポリスメン。しかも2人。
にこやかに話しかけてくるポリスメン。でもそこはかとない圧を感じる。
ふえぇ、怖いよぅ。
「何されてるんですか?」
「え、と……ま、待ち合わせを、ちょっと」
「待ち合わせですか。……念のため、身分証明できるものを見せていただけますか? あとカバンの中も見せてください」
「は、はいっ」
あぁっ、そうこうしているうちに2人が行ってしまう……!
くそ、まさか職質を受けるなんて……そんなに怪しいことしてないでしょ、俺! 職質なんて人生初だよ! 俺の初めてが奪われちゃう!
あーもうっ、どうしてこんなことに……!
……はい、マスクとサングラスのせいですね、知ってました。
くそ、もうこの2つは使わん、役立たずめっ。
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