横島恋歌は〇ッチである──③

 横島恋歌は、幼小中ともにドが付くほどの陰キャで、オタクだった。


 傷んだ髪の毛に、肌荒れが目立つ頬。

 背が高く、ぽっちゃりとした体型。

 自分を小さく見せようとし猫背になり、自信もなく、声も小さいから自分の意見は言えない。


 恋歌のことを知っている俺だから気にはしていなかったが、周りは恋歌のことをはやし立てた。

 そうして恋歌は意を決した。

 高校デビューをして、華やかな高校生活を手に入れる、と。


 中3の夏からダイエットや美容に力を入れ、勉強も手を抜かず、卒業する頃には誰もが振り向く美少女となった。

 高校も、うちの中学からは俺以外に受験する人がいない場所に合格した。

 小さいことの積み重ねが、恋歌に自信を付けさせた。

 オタクグッズで溢れていた部屋も、いつか陽キャの友達を呼べると思いほとんどを捨てたと聞く。


 自分に自信を付けた恋歌は、それだけに留まらず。

 黒髪を鮮やかな金髪にし。

 タンニングで褐色の肌を手に入れ。

 見事、ギャルへと変貌した結果──。


 高校デビュー虚しく、ボッチとなったのだった。



「どうしてこんなことに……」

「うちの高校、一応進学校だぞ。ギャルなんていないいない」

「うえぇん」



 あ、また泣き出した。

 仕方ないなぁ……。

 俺は昔を思い出すように、恋歌の頭を撫でた。

 昔から恋歌が泣いたら、こうして頭を撫でてやったっけ。

 恋歌は泣くも、俺を見上げてほにゃっと笑った。



「とーや……ありがとう」

「気にすんな」

「……ごめんね、あんなこと言ったのに……」

「それもこれも、全部気にすんな」



 思い出されるのは、卒業式直後のこと。

 一緒に帰っていた恋歌は突然、俺に宣言した。



『ウチ、もう1人でなんでもできる! 高校からは花の女子高生として陽キャになるから、邪魔しないでよね!』



 いやぁ……あの頃の空回りっぷりは、見ててちょっと痛々しかったなぁ。


 結局、俺は俺のまま無難に高校生活を送れて、友達もまあまあいる。

 恋歌は空回りしたまま、今までボッチだった。


 可哀想だが、これが現実なんだ。



「で、どうするんだ? 今更ギャルやめて更生しても、周囲のお前への印象は変わらないぞ」

「死体蹴りやめて」



 ごめん。でも事実だし。

 恋歌は布団を頭から被って、俺の視線から逃げる。

 逃げても意味ないぞ。現実を直視しろ。

 恋歌は観念したのか、顔の半分だけ覗かせて俺の手を握ってきた。

 熱い。まだ熱が高いな。



「……十夜にはごめんだけど、ウチはこのままがいい。……もうあの頃みたいに、惨めな思いはしたくないの」

「……そっか。なら、俺はどうすればいい?」

「……え?」



 俺の言葉に、呆然とする恋歌。

 何を惚けてるんだ、こいつは?



「事情はわかった。恋歌も、あの時の言葉は後悔してるんだろ。なら、俺はもう無関係じゃない」

「む、無関係じゃないって……なんで……?」

「幼馴染だろ。助けるのは当たり前だ」

「……おさななじみ……そ、か……えへへ。ありがとう、十夜」



 恋歌は安心からか、朗らかな笑顔を見せる。

 どんなに見た目は変わっても、この笑顔は変わらない。

 恋歌は恋歌なんだ。



「そ、それじゃあ……寝るまでずっと、傍にいてほしい、かな……」

「そんなんでいいのか。わかった」



 言われなくても、今の恋歌を放っておくなんて出来ないし。

 恋歌の傍に椅子を持ってきて、また手を握る。

 安心しきった顔の恋歌は、目を閉じて夢の世界へと旅立っていった。



「大切な幼馴染の頼みだ。できるだけやってやるさ」



 俺は恋歌の手を離すと、机の上に俺の携帯番号と、メッセージアプリのIDをメモ書きとして残した。

 1年前のことがあって、2つとも恋歌に消されたんだよな……そこまでする必要なんてないと思ったけど。あの時は結構ダメージをくらった。



「俺も、次は間違えないようにしないとな」



 恋歌は間違えたから、ボッチになった。

 俺も間違えから、恋歌を1人にしてしまった。

 でも次は間違えない。──恋歌を1人にはしないさ。

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