163ストライク かち割りたいあいつ
翌朝、朝食をみんなでとっていると旅館の受付から一報が入り、手紙を2通手渡された。もちろん、差出人はファイス宗国ベスボル協会長のサイモンで、1通はユリアに、残りは俺たち宛だった。
中身を開けると、昨日の件に関する処遇について簡単に記載されているだけで特に変わったところはなかった。ユリアの方の内容が気になり、手元の手紙を折りたたみながら尋ねてみる。
「ユリア、内容はなんだった?」
「……試合に関する事が書かれているわね。1ヶ月後、ここファイス宗国のグラウンドでエキシビジョンマッチを開催する事。チームメイトは私が選出していい事。ただし、加えていいのはファイス所属選手のみである事。」
「意外とシンプルだな。他にはなんかないの?」
「特には……」
そう言いつつ、手紙の続きに目を通していくユリア。俺たちはそれを静かに待っていると、彼女が1つある事に気がついた。
「あ、1つ追加条件が書いてあるわね。えっと……試合ではユリア=プリベイル、ソフィア=イクシードの両名は…………はぁ!?何よこれ!!」
手紙を読んでいたユリアは、突然表情を一変させて立ち上がった。その拍子に座っていた椅子が大きな音を立てて倒れ、ミアたちが驚いた顔を浮かべている。
「どうした?なんか問題でもあるのか?俺とユリアについて書かれていたみたいだけど……」
落ち着いた態度でユリアに尋ねると、彼女は怒りに満ちた表情を浮かべて勢いよく手紙を差し出した。それを受け取った俺はゆっくりとその内容を確かめていく。
「ここからかな?えーっと……試合ではユリア=プリベイル、ソフィア=イクシードの両名はゲームマネジメントに徹し……試合に参加してはならない。なお、出場人数は両チーム2名ずつとする…………だと!はぁ!?何考えてんだ、こいつら!!」
最後まで手紙を読み切って、俺の中にも怒りが湧き上がった。
なんだ、ゲームマネジメントって!監督をしろって事か?試合に出るなとかまったく理解できん!これは絶対にあのくそ皇帝の仕業だな。公式戦だと俺たちは監督ライセンスを持たないからこんなルールで試合はできない。それをわかっていて、あいつはサイモンに非公式のエキシビジョンマッチの提案をしたんだ。サイモンがこんな事を考えるはずがないからな。
テーブルに手紙を叩きつける。それでも怒りが収まらず、大きく息を吐く。ユリアもそんな俺に同調する様に怒りの言葉を綴る。
「なんで私が監督なんかしなきゃならないわけ!?これを考えた奴の頭をかち割って、中身を見てみたいわね!」
しれっと怖い事を言うユリア。
でも、その相手は実は皇帝なんだぞとは口が裂けても言えなかった。たぶん、それを言ったらユリアが困惑するし、なんで俺がそんな事を知ってるのかと問い詰められかねないし。
ユリアの言葉を聞いて冷静さを取り戻した俺は、頭を切り替えて今後の動き方についてみんな相談する事にする。
「それでだけど、これからどうするかだな。俺とユリアが選手じゃない試合は本来望むところじゃない。この試合は公式なものじゃないから別に突っぱねてしまってもいいと俺は思ってるんだが……みんなはどう思う?」
その問いかけに初めに口を開いたのは、意外にもオーウェンだった。
「断るべきではないんじゃないか?」
「……どうしてそう思う?」
いつもならネガティブな発言をするオーウェンが、今回は前向きな事を言うので少しばかり驚いたが、彼の言葉に耳を傾けてみる。
「だってさ、僕たちはユリアを仲間にしに来たんだろ?でも、帝国側は彼女の登録籍を簡単に変えようとはせず、こんな試合を組んできた。要するにこの試合を乗り越えないと、ユリアは僕たちの仲間にならないって事なんじゃないかな。」
「オーウェンの言うとおりだにゃ。ユリアを仲間にするためにこの試合は避けて通れにゃいと私も思うにゃ。」
ミアがオーウェンに同意したので、オーウェンが嬉しそうにニヤニヤし始めた。その事が気に食わなかったが、話が逸れるので彼を無視して会話を続ける。
「ミアとオーウェンの考えはわかった。ルディはどう思う?」
「そうですね。今後の事を考えれば、試合を受ける方がメリットはあるかと思います。ユリア様の籍を変更してもらうためにも、協会の話に乗った方がいいかと。ただ、今回の試合の勝敗によってソフィアさんとユリア様の2人にどんな条件が付けられるか……それが気になりますね。」
「そうだな……試合の勝敗云々に関しては確かにきな臭い感じもするけど。」
手紙には勝負がついた後の事は、当たり前だが書かれていない。その辺に気が回るルディはさすがだ。やはりこのチームには欠かせない存在だと改めて感じた。
「みんな同じ意見って事でよさそうだ。なら、まずはこの勝負を飲む代わりの条件として、ユリアの登録籍を帝国へ変えてもらう事を提示しよう。」
俺がそう言うと、ミア、オーウェン、ルディの3人は大きく頷く。
「ユリア、君もそれでいいよな?」
納得がいっていないユリアはムスッとした表情を浮かべているが、やるべき事は理解しているのだろう。顔をこちらへ向けはしないが、こくりと小さく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます