159ストライク それは……ないでしょ!
「へへへ、俺の勝ちだな。」
俺が笑いながらそう告げると、呆然としていたユリアはハッとして悔しげな表情を浮かべる。
「ちょっと……今のはなんなの?」
納得がいかないといった顔。
それを見ているとちょっとした優越感が湧き上がるが、今はその気持ちを抑えて冷静に端的に説明する。
「何なのも何も、ユリアのスキルを借りただけだよ。」
「借りたって……あんた何言ってんのよ!そんな簡単に黒雷が使えるようになる訳ないじゃない!それともなにかしら?!あなたもこっそりそのスキルを習得してたわけ?」
ユリアは苛立ちを隠す事なく、俺を指差してそう食ってかかってきた。
だが、それもそのはずだと思う。黒雷というスキルはそんな簡単には習得できない代物で、雷属性をベースに複数の属性を掛け合わせて発動するが、その魔力配分がかなり難しいとされている。少しでも間違えれば、スキルは霧散するか別のスキルになってしまうので、かなりの鍛錬とセンスを要するスキルなのである。
ユリアはそれを5歳で体得していたのだから、本当にすごい才能だと改めて感じるし、彼女の悔しさはよくわかった。
しかし、俺の右眼には特別な力があって、実はそれを使えば黒雷を真似る事など造作もない事だった。その力を俺は魔眼と呼んでいて、左眼と同じく目に宿す力であるが魔力やスキルを見通す神眼とは違い、相手の魔力やスキルをコピーして使用できる力である。
周りからすれば、もはやチート能力でしかないこの力はすでに5歳の時に発現していた。ユリアに負けた後、俺は自身の無属性を解消する為にジルベルトと色々と試していたが、その進捗は思わしくはなかった。
その事を悔しがっていた俺にジルベルトが一族の秘技を見せてくれると言い、気晴らしに間近でジルベルトのスキルを観察させてもらったが、その後自分が炎属性を使える様になっていた事に気づいた。驚いた俺はすぐにスーザンに連絡して分析してもらったところ、おそらくその秘技を見て気持ちが昂った事で右眼の力が発動し、魔力を何かしらの形で体に取り込んだのではないか、というのが彼女の見解であったのだ。
喜んだ俺はすぐに右眼の力を試してみたところ、この力の特性が触れた魔力を自分に取り込めるという事がわかった訳である。
ちなみにこれは、ミアとオーウェンにもまだ話していない力だった。時が来たら話そうと思っていたが、そのタイミングはなかなか来なくて話す事ができずにいたが、これはいい機会かもしれない。
睨みつけてくるユリアを見ていて、俺は小さく息をつくと、ミアとオーウェンにも集まる様に声をかける。
「その質問に答える前に。ユリア、まずこの勝負は俺の勝ちって事でいいよな?俺たちのチームに入ってくれるって事で……」
「ちっ……それは約束だから仕方ないわ。」
苦虫を噛み潰した様な表情でそう答えるユリア。
その事にまずは喜び、大きくガッツポーズする。ミアやオーウェンもホッとした様に笑っているので、3人でハイタッチを行っていると、ユリアが我慢ならずにそう怒る。
「いいから!早く私の質問に答えなさい!」
「あぁ、そうだった。」
ミアたちが焦って姿勢を正した事に苦笑しつつ、俺はゆっくりとユリアへ向き直った。
「実は俺には2つ、特別な力があるんだ。」
「特別な……力……?」
俺の言葉に怪訝な表情を浮かべるユリア。
その顔が冗談が通じない顔だと一目で分かった俺は、ふざけるのはやめにする。
「あぁ、俺の眼にはある力があってさ……」
そう告げながら一度目を閉じ、再び開くと同時に両眼の力を発動させると、ユリアは本気で驚いた表情を浮かべた。
「あなた、それ……まさか!」
「ん?ユリアはこれの力の事を知ってるの?」
彼女の反応からして、これが何なのか知っているのだろうか。少し驚いてそう尋ねると、ユリアは小さく頷いた。
「昔、公爵家の書庫で読んだ事があるのよ。眼に力を宿す英雄の話を。お伽話だと思っていたけど、まさか本当にいるなんて……」
「英雄の話……俺は聞いた事ないな。どんな話なんだ?」
再び尋ねる俺に対して、ユリアは目を閉じて小さく息をつく。
「帝国を建国した英雄よ。それはあなたもよく知っている人物よ。」
「俺がよく知る……?帝国を建国したって事はつまりは……」
俺の言葉にユリアはこくりと頷いた。
それはもはや言うまでもない事実である……まるでそう伝えているかの様にこちらを見据えているユリアに対して、俺は無意識に目を見開いてしまう。
「皇帝……」
「そうよ。まったく……あなた、本当になんなのよ。まさか皇帝の血筋とか言わないわよね。」
「いやいや!それはないって!」
そう……それはないはずだ。
なぜなら、それが本当ならば母であるニーナか父であるジルベルトのどちらかがそういう事になる訳で。そんな話は聞いていない。
だが、聞かされていないだけという可能性もないわけではない。
ミアもオーウェンも驚いた顔で俺を見ているが、当の本人である俺はそれ以上言葉が出てこなかった。
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