141ストライク ルーデス=ベルフィム

 ルディの本当の名はルーデス=ベルフィムという。


 彼はこの世に生を受けた時から魔力のない体質、正確にはソフィアと同じく無属性であり、彼の両親はその事を嘆いたが、それでもなお彼を可愛がり大切に育ててきた。

 だが、成長するにつれて、無属性である体質が彼の人生の壁となる事は分かりきった事だった。魔力が使えないという事は周りとは違うという事であり、学舎ではバカにされ続け、ろくに友達もできる事はなかったし、社会に出ればもちろんまともな仕事に就くことすらできなかった。


 それでも、彼は両親に感謝していたが、程なくして彼は実家を出る事を決める。

 両親はもちろん反対した。魔力を持たない彼がこの世界で1人で生きていく事など到底無理な話で、我が子をみすみす見殺しにはできないと考えるのは親として当然だった。

 だが、彼は両親にこう告げたそうだ。



「魔力が使えない事は僕の個性なんだ。他の人とは違う……これは僕に与えられた試練なんだと思う。だから僕は世界を見るよ。僕が生まれてきた理由を探したいんだ。これまで立派に育ててくれてありがとう。」



 その眼に浮かぶ覚悟を見た両親は考えを改め、彼を快く送り出したという。それはルーデスが14歳の頃だった。

 それから彼はいくつかの国を見て周ると、その途中で帝国を訪れ、そこである人物と運命的な出会いをする事となる。

 第13代皇帝であるインペリ=トウサ=クレス。彼は帝国立競技場でのエキシビジョンマッチの準備で下町を訪れていた際に街を歩くルーデスを見て呼び止め、皇居に招いたのだった。国のトップが一般市民を皇居に招くなど普通はあり得る事ではなく、さすがにルーデスもこれには驚いたが、皇帝は笑いながら単刀直入に要件を伝える。


 その内容はルーデスの体質について。

 皇帝はルーデスが無属性持ちである事を見抜いていたのだ。そして、皇帝はルーデスにある提案をする。



「近々、この街の競技場でベスボルのエキシビジョンマッチが開催されるんだが……君をそこに招待したいと思ってね。」

 


 何故だろう……。

 当たり前だが、それが最初に浮かんだ疑問だった。結果、皇帝はその理由について明確には教えてくれなかったが、何にせよ一般市民であるルーデスが皇帝の提案を断れるはずもなく、数日後に開催されるベスボルの試合を観戦する事になった。


 そして、試合当日、ルーデスは試合をする人物を知って驚いた。公爵令嬢であるユリア=プリベイルと辺境に住む少女ソフィア=イクシード。どちらも齢5歳の幼気な少女だったからだ。

 だか、その試合はとても5歳児の勝負とは思えないほどのもので、ルーデスは終始目を逸らす事なく魅入ってしまっていた。結果的にイクシードの少女が怪我をして棄権してしまい、試合は幕を閉じる事となったが、帰る前に皇帝に呼びだされた。



「どうだった?」



 皇帝はシンプルにそう尋ねてきたので、ルーデスも思った事をシンプルに述べる。

 見事な試合だった。あんな小さな少女たちが胸を熱くする試合をするなんて思ってもみなかった、と。

 すると、皇帝はにんまりと笑ってルーデスにこう尋ねた。



「君はあのソフィアという少女を見てどう思った?」



 皇帝が何故そんな質問をするのか理解ができなかったが、ただで試合を観戦させてもらった手前、答えない訳にはいかないと感じたルーデスは、率直な感想を伝える。



「上手くいませんが……計り知れない何かを感じました。」



 それだけを伝えたが、それでも皇帝は納得したように頷き、さらにこう告げた。



「彼女、君と同じく無属性なんだぜ?」



 それにはさすがに驚きを隠せなかった。

 無属性であるなら、あのソフィアという少女はなぜ魔力を使えたのだろうか。自分は使えない……というより無属性持ちは例外なく魔力は使えないはずなのに。

 自分の心の中に何か嫌なものが生まれた気がしたが、それを見抜いた様に皇帝は笑った。



「君に仕事を与えたい。」


「仕事……?」


「そうだ。受けてくれるなら魔力の使い方を教える。」


「はっ……?」



 不覚にも皇帝に対して「はっ……?」などと言ってしまうとは。その場で処刑されても仕方がないほどの不敬を働いてしまった事に動揺を隠せずにいたが、皇帝は特に気にした様子もなく笑っている。



「受けるのか?受けないのか?」



 その催促にどうしたものかと一瞬悩みもしたが、そもそもルーデスに選択権はなかった。それに魔力が使えるようになるというのが本当ならば、断る理由もない。

 すぐに受ける事を伝えると、皇帝は嬉しそうに笑ってルーデスに1枚の紙と封をした手紙を手渡した。



「紙の方は君に。君の体質とその解消方法、それに魔力の使い方が書いてある。」



 そう言われて渡された紙に目をやると、難しげな理論とともに自分の体質の事が細かく書かれている事に驚いた。そんなルーデスの事を楽しげに眺めながら、皇帝はさらに指示を伝える。



「手紙は例のイクシードの娘に渡してくれ。ただし、それには条件がある。」


「条件……ですか。」



 ルーデスの疑問に皇帝はこくりと頷くと、笑みを深めてこう答えた。



「数年後、豪商ケルモウのところにイクシードの娘が尋ねてくるはずだ。君はその前にケルモウを尋ねて、娘に試験を受けさせろと提案するんだ。おそらく彼はそれを飲むだろう。そうしたら、君はその試験で彼女と勝負をするんだ。そして、彼女が君に勝ったらそれを渡してくれ。」



 訳がわからなかった。

 だが、それ以上に自分のするべき事が明確になった事に喜びを隠せなかったルーデスはそれを快諾したのであった。

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