139ストライク 勝負の行方
野球におけるバッティングは、大きく4つの流れに分ける事ができる。
まずはバッターボックスに立った状態の構えの状態から溜めを作るバックスイング。次に投手が投げたボールの軌道を見極めスイングするアプローチ。そして、バットがボールに当たる瞬間のインパクト。最後にバットを最後まで振り抜くフォロースルーの4つであり、これらは打撃を行う上で基本となる動きの流れでもある。
それに、これはベスボルでも同じ事でバッティングの方法は変わらない。ルディのスキルを迎え撃つ為に、俺はこの流れを正確に、そして完璧に近いフォームで行っていく。
まず、バックスイングにより体重を軸足に乗せた状態で、軸足とは反対の足をルディの方向にステップする。このステップの幅は好みの問題もあるが、スイングにおいては重要な要素の1つである。
幅が狭いほど身体の軸は不安定になり、広いほど安定する反面、狭いほどスイングは鋭くなり、逆に広いほど軸腰の回転は難しくなる為、スイングスピードを上げるのが難しくなる。
狭すぎても広すぎてもダメ。自分の体格、筋肉量などから1番ベストな幅で踏み込む事が何よりも重要なのである。
次に左足の着地と同時に、今度はアプローチへ移行する。野球でいうスイングとはバットを振る動作の事を指し、バットの軌道によって上から下に振る「ダウンスイング」、下から上に振る「アッパースイング」、水平に振る「レベルスイング」の3種類に分けられる。
スイングのコツはバットのグリップをボールの軌道上に合わせるように振り出し、利き手の肘をしっかりとたたむ事で、この動作によってバットが最短距離で出る様になる。
また、スイングは腕の力ではなく、腰の回転を利用した遠心力でバットを振るようにイメージする事が重要だ。その際の体重移動も、後ろ足の股関節に乗せていた体重を身体の中心に移すように行っていく事も忘れてはいけない。
ルディのスキルはすでに目と鼻の先に迫っており、まるで生きているかの様な咆哮を上げているが、それに対して俺は目を背ける事なく握ったバットをボール目掛けて振り抜いていく。
燃え盛る炎と吹き荒れる風。
普通ならそこにボールの姿など確認できる余地などなく、凡人ならば見逃すか空振りするのが道理だが、俺の両眼ははっきりとボールの位置を特定しており、竜の腹辺りに見える球体がまるで竜の心臓の様に存在しているのを確認していた。
その球体目掛けて振り抜かれたバットは、最短距離の軌道を描いてルディのスキルとぶつかり合う。
触れ合った瞬間、風属性同士が相殺し合い、残された水属性と火属性が反応し合って水蒸気を発生させる。だが、いまだに衰えない炎の熱気は強く、皮膚と髪をチリチリと焼かれる様な威圧感を感じてバットを握る手に力が入る。
ルディのスキルは想像以上に強く、バットはまだボールには届いていないが、俺自身は冷静に状況を見極めていた。いくらルディのスキルが全部の魔力を使い切るほど強力なものであっても、俺のスキルも負けてはいない。このまま押し切れる。そう判断していた。
ここで絶対に負けるわけにはいかない。
俺はこのスキルを打ち返し、この勝負を制して俺はベスボルのチームを作るのだから。
この想いは誰にも負けない。
そう思った瞬間、ルディのスキルを突如として黒い魔力が包み込んだ。モゴモゴと蠢いた後にまるで鎧を装備した竜の様なその姿を見て心が躍り、内心で俺も男子なのだと改めて感じる。
しかもその力もなかなかのものだ。俺のバットが押し負けている。このままだとバットを弾かれるかへし折られて負けが確定するだろう。
だが……
「俺のとあんたの……どっちが強いか勝負だ!!」
俺がそう叫ぶと同時に、俺の体とバットを黒紫の魔力が包み込んだ。
「な……!?君も魔属性を使えるのか!?」
驚いてそうこぼすルディを気にも留めず、俺は目の前で握ったバットに集中力を向ける。
まもなくして、発動した魔属性の魔力がバットを包み込み、まるで剣の様な姿へと形を変える。黒い竜の牙と剣の刃がギリギリと火花を散らす様子は、まるで襲いくる邪悪な竜とそれを打ち倒そうとする黒い剣士がぶつかり合う様子を想像させるほどだ。
だが、拮抗していたスキルの力のバランスもすぐに傾きを見せ始めた。俺のスキルがルディのスキルを押し始め、まるで剣で切り裂くかの様にバットが竜の体を消し去っていく。
そして……
「この世界では……俺は絶対に負けねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
ボールとバットがぶつかる瞬間のことをインパクトと言う。バットがボールの下側に当たればフライに、上側に当たればゴロになるため、前述したレベルスイングでボールとバットの接地面を増やし、しっかりとボールに力を乗せることが重要となる。
そのコツは押し手側の肘を伸ばし切らず、適度に余裕を持たせる事。そして、バットの先端部分が地面の方に下がらないようにして、へその前辺りでインパクトし、ボールを押し込む意識を持つ事だ。
俺が吠えると同時にバットへ全ての魔力が注がれ、ルディのスキル自体を飲み込んだ。後に残された白球を俺のバットが捉える。
澄んだ音が聞こえて握っていたバットが軽くなり、俺は大きなフォロースルーを取る。このフォロースルーも大切な流れの1つで、これを意識する事でインパクトまでの動作も正確なものになるし、その際は押し手側の肘を伸ばすことが、よりキレイなフォームを作るうえでは重要となるのだ。
フォロースルーを行いながら、俺はボールの行く末を静かに見守っていた。
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