122ストライク トドメとアイツ

「魔爆演舞!!」



 黒紫のオーラを纏う双剣を手にしたまま、炎の矢に苦しむキメラに向けて飛び掛かると、それに気づいたキメラが苦し紛れに大きな腕を振ってその爪を俺に向ける。

 だが、俺はその腕を華麗にかわして懐に入り込み、キメラの胴体に対して真っ向斬りで双剣を思い切り叩き込んだ。



「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 次の瞬間、キメラの胴体が切り裂かれて血しぶきが辺りに噴き出した。

 だが、俺はそれに構うことなく振り下ろした双剣のうち、右刀だけ打ち上げる様に逆袈裟斬りを放ち、その勢いを利用して左刀での逆袈裟斬りを同じ場所へ追加した。

 受けたキメラは絶息しそうな呻き声をあげているが、俺がそれを憐れむ事はない。すぐに態勢を整えて今度は両刀での袈裟斬りを同じ場所へ見舞い、そのまま様々な角度からの連撃に移行する。

 袈裟斬り、逆袈裟斬り、片手一文字斬り、連突きと容赦ない攻撃を放ってくる俺に対して、キメラ自身もなんとか振り払おうと体を捻って腕や足による反撃を試みるが、その全てを軽々とかわすと、俺は更なる連撃を見舞っていった。



「……よっと。」



 一通り斬り終えた俺は、キメラの前に急停止する様に姿を現す。

 すると、その姿を捉えたキメラは最後の力を振り絞るように咆哮をあげた。それはさきほどまでの自信に満ちた強烈なものではなく、息も絶え絶えになりながら命の灯火を必死で燃やし、俺に一矢報いてやると言わんとしているように聞こえる。

 そして、やつの体の周りには無数の紫色の球体が姿を現し、それら全てが電気の様な放電を放ち始めた。



「お前も懲りない奴だなぁ~。まぁ、さっきからスキル打たせてもらえてないし、フラストレーション溜まりまくりだなんだろうけどさ……」



 その原因が自分である事は完全に棚に上げて、振り返りつつ呆れたようにそうこぼす俺に対して、キメラは憎しみの眼差しを向けて球体へとさらに魔力を注ぎ始めた。無数の球体の放電が激しさを増す様子からは、まもなく奴のスキルが発動すると理解できた。

 だが、俺に焦りはない。

 なぜなら、双剣に練り込んだ魔属性の魔力の効果は今から現れるからだ。



「でも、今度も使わせない。これでお前はご愁傷様だ。」


「グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」



 咆哮と同時に紫の球体が激しく発光し始め、キメラの広範囲スキルが発動するやに思われるもの、それよりも先に発動したのは俺のスキルだった。


 斬りつけた部位から黒紫のオーラが無数に飛び出し、それが一気に弾けていく。爆発というよりは破裂すると言った方が正しいかもしれない。そんなスキルの連鎖がキメラの体を一気に覆い尽くして、全身から血しぶきを飛ばす。

 奴の周りで放電していた球体はいつの間にか消え、まさに断末魔に相応しい叫びが辺りに轟いたかと思えば、目の前の大きな巨躯が地響きを立てて地面に倒れ伏した。

 その様子を静かに見守っていた俺は、小さくため息をつく。



「ふぅ、これで終わりかな。適当に魔爆演舞とか名付けてみたものの……斬った部分に張り付けた魔属性の魔力を時間差で破裂させるってのは、ちょっとエグかったかな。」



 目の前で横たわるキメラの死骸は、無数の裂傷とそこから流れ出すドス黒い血液により見るに耐えないほど無惨な姿になっており、それを見てちょっとやり過ぎたかなと反省する。

 だが、すぐに頭を切り替えて脅威が去った事をケルモウとアントスたちに伝えようと洞窟へと向かおうとしたその時だった。



「……ん?この反応は……」



 常に張り巡らせている魔力感知にある反応が引っかかった。それは俺にとって懐かしい人物のものだとすぐに気付くと同時に、なぜ彼がここにいるのかという疑問が浮かぶ。

 そして、その疑問は自然と俺の足を彼の下へと運んでいた。



「やっぱり……でもなんで彼がここに?」

 


 木の枝から枝へと飛び移りながら数秒ほど移動すると、予想通りの人物の姿が確認できた。


 ムース=エクレルール。

 帝都ヘラクで名門のリトルチームを運営している男で、チームの事で俺にいちゃもんをつけてきた奴だ。ルールを破ったから協会に言いつけるなどと、よくわからない事を言ってきたからイラッとしたけど、シルビアのおかげで帰ってもらう事に成功したんだっけ。

 まぁ、こいつのおかげでユリアと対戦できたのである意味で感謝はしているんだが。

 しかし、何やら焦っている様だな。めちゃくちゃ挙動不審だし、大量の汗がそれを物語っている。



「とりあえず、話だけでも聞いてみるか。感動の再会だな。」



 鼻を鳴らして枝から大きく跳躍した俺が、ムースの目の前に飛び降りて挨拶を告げると、彼はかなり驚いた様子で尻餅をついてしまった。


 

「ソ……ソ……ソフィア……イクシード!!」



 まるで悪魔でも見たかの様な彼の顔色に少しだけ不満はあったが、まずはここにいる理由を聞かないとならない。

 そう切り替えて、理由を問いかけてみた。


 だが、帰ってきたのは恐怖への悲鳴だけ。



「ひぃぃぃぃ!私は悪くない!私のせいじゃ……!!」


「何の事だ?自分のせいじゃないって……っ!?お前もしかして……」



 その瞬間、俺は全てを察した。

 未知の魔物の出現とここにいる理由のないムース=エクレルールの存在。


 それが指し示す答えについて。

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