101ストライク 想いの強さ、それぞれの…


「また来たの?」



 少し呆れた声色でそう問いかけられて、私は肩にかかった自慢のツインテールを右手で跳ね上げ、面倒くさそうに返事をする。



「当たり前でしょ。私は選手であって、別にここに来ちゃいけない理由はないんだから。」



 その言葉を聞いて、カウンターに立つ受付嬢はまるで「無駄なのに…」とでも言いたそうに小さくため息をついているが、私はその態度に鼻を鳴らす。


 このやり取りはもう何度目だろうか。

 この街の協会に出入りを初めてかれこれ一年近くなるが、彼女とのやり取りにも慣れてしまった。


 ここはファイス宗国。

 世界は精霊神が創造したという神話を敬愛し、精霊神への信仰を教えとする独自の宗教概念を持つ宗教国家。そして、他の国とは違って王族ではなく、最高法神官が治めている国だ。


 この国に来たのはベスボルの鍛錬のため。

 ファイス宗国は宗教国家であり娯楽のない国で有名だが、なぜだかベスボルだけは盛んで、しかも所属する選手たちのレベルもかなり高いのである。

 なぜベスボルだけが盛んになったのかについて詳しい理由は知らないが、ファイス宗国を治める最高法神官が大のベスボル好きだとか、精霊神からお告げが下ったとかいろんな噂話は聞いたことはある。


 ただ、私にとってそんな理由はどうでもよくて、強い選手がいるなら鍛錬にはもってこいだという理由で訪れた国だった。



「……で、今日の分を出してもらえるかしら?」


「はぁ……そろそろ諦めたら?」


「あなたには関係ないでしょ!言われたとおりにすればいいのよ。」


「ほんといつもと変わらず偉そうな態度ね。まぁ別にいいんだけど……」



 受付嬢はそう肩をすくめると、目の前の端末に魔力を通し始めた。そして、何やら確認しながらメモを取り、いくつか書き終えたところでそのメモ紙をこちらへ向ける。



「はい。これが今日の登録者ね。どう?あなたの欲しい名前はあるかしら?」



 鼻を鳴らしてメモを受け取って眺めてみたが、目的の名前がない事にはすぐに気づいた。あの名前は間違えるはずもない。今1番会いたい人物の名前なのだから。


 小さくため息をつき、メモ紙をカウンターの上へと置くと、受付嬢がそれを受け取りながら私に尋ねてくる。



「毎日懲りずに……いつまで続ける気?」


「あいつが選手登録するまでよ。」


「そのあいつが誰なのか知らないけどさ……もしかしたら登録なんかしないかもしれないじゃない。」



 受付嬢はそう諭すように告げたが、私はそれに自信を持ってこう答えた。



「いいえ、あいつは必ず登録するわ。あいつは私に借りがあるんだから。」



 そう告げた私は、改めて肩をすくめると受付嬢に目もくれず、今日のトレーニングを行うために協会を後にした。





「そういう事で、選手登録する前にお前の力を試したいんだけどいいか?」



 俺がそう告げると、縄から解放された手首をさすりながらオーウェンは面倒くさそうに頭を掻く。



「僕の力はこの前の鬼ごっこで証明しただろ?これ以上、手の内を晒したくないんだけど……」


「鬼ごっこ……?あぁ、貧民街での事だな。あれがお前の本気ってことでいいんなら、俺はそれでも構わないが……俺に完膚なきまでに負けたって事で……」



 俺は挑発するようにニヤリとと笑みをこぼした。

 ……というか完全に挑発してるんだが。こいつの性格からして自分のプライドを傷つけられる事を嫌うはずだ。だから、そこを刺激してやれば簡単に挑発に乗ってくるはず……

 そう高を括っていたが、意外にもオーウェンのやつは乗ってこず、こう言い放つ。



「それでもいいさ。アンダーテイカーは自分の力を誇示しないんだ。これは生き延びるための秘訣でもある。自分の能力が知られるってのは死に直結する事だからな。」



 意外にも面倒くさい奴でイラッとした。

 そこは挑発に乗って「いいぜ!僕の力を味合わせてやる!!」とかイキがるんじゃないのかよ!と内心でツッコんでしまったが、俺だって冷静さは崩さない。

 こちらにはもう一つ切れるカードがあるんだから。



「そっかぁ……それは残念だな。なぁ……ミア。」



 残念そうにミアを見て、オーウェンにバレないようにウィンクすると、察したミアが話を合わせてくれる。



「そうだにゃ……シルビアさんがせっかく良い提案してくれたから、何とかなると思ってたけど……オーウェンもダメとなるとやっぱり別の方法を探すしかないのかにゃあ……」



 いい感じで残念そうに肩を落とすミアの演技に満足しつつ、オーウェンに視線を向けるとなぜか俯いてワナワナと肩を震わせている。

 いったいどんな反応なんだよと疑問に思いつつも、ここは一気に畳み掛けるべきかどうか悩んでいたが、どうやらその必要はなかったようだ。オーウェンは突然血相を変えて叫び出した。



「ミ……ミアちゃんに何があったんだ!!おい!!教えろ!何が……!!僕のミアちゃんにいったい何があったんだぁ!!」



 お前のじゃねぇと内心でツッコミつつも、俺はバレないように笑みを浮かべて演技を続ける。



「ミアはさ……魔力の問題でスキルがうまく使えないんだよ。ベスボルが好きで、プロを目指して頑張りたいのに、魔力障害のせいでまともにスキルを使えない……」



 こぼれ落ちる涙を指で拭いながら、悲しげな声色で大きくため息を吐く。もちろんこれは演技だが、今のオーウェンには効果絶大だった。



「魔力障害だとぉぉぉ!!?ミアちゃんに何が起きてる!?教えろ!僕は何をすればいいんだ!ミアちゃんの為なら僕はなんでもする!!教えろぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 その様子を見て俺は思った。

 こいつキモイな、と。

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