第2話 異世界へ

「ここ……どこ?」


 ふと、目を覚ました少女は魔装をまとった状態で、仰向けになっていた。視界に入るのは、少女がさっきまでいたはずの暗い夜道では無く、どこまで続いているの分からない程の青空だった。


「ついさっきまで、異物と戦っていたはずなのに。それに」


 少女はゆっくりと体を起こし、座った状態で辺りを見渡す。その様子は、まるで子どもが昼寝から起きて、まだ寝ぼけている様子そのものだった。

 実際に少女からしてみれば、夢の中にいると錯覚しているのかもしれない。

 そこは、さっきまでの住宅街から少し外れた、人通りが少ない場所ではなく、平野が広がっている。


「さっきの異物はどうしたんだろ? 私倒したのかな?」


 目の前の脅威が無くなったと悟り、少女の臨戦態勢はOFFになった。ゆっくりと立ち上がり、首をかしげる。さっきのこともあり、念の為かまだ魔装は解除せずにそのままの状態だ。


 すると、少し遠くの方から騒がしい気配を感じて、反射的にそちらの方向に首を向ける。


「え!? あれって!」


 少女の目に映ったのは、よく知る異物ではないがまさしくそれと同位のものだった。さっき少女の目に映った異物とはまた違うことはすぐにわかった。

 それと同時に、1つの人影を目を捉えた。


「戦ってる? もしかして私と一緒? よく見えないから、もう少し近くに行って見よう!」


 少女はいつも通り浮遊して、少し離れた場所にいる異物と人影の方に近寄る。異物から比べれば、その人影は豆粒のように小さい。

 普段なら一刻も早く倒すために、全速力で浮遊するのだが今ばかりは様子見と言わんばかりにゆっくりと空を飛んでいる。

 それは、その人が自身と同くを持っているのであれば、それを邪魔してはいけないと思ったからだ。

 その重要性を誰よりも分かっているから。

 しかし、少女にとってもそれはとても珍しいものである。事実少女は自身と同じ存在を今まで目にしたことはない。だが、この世に自分しか異物と戦うものが存在していないなどという、慢心は持ち合わせていなかった。誓いを交わした時に、が口にしていたことを、頭が混乱している中でもきちんと聞き逃していなかったからだ。


「それにしても、あの人は飛ばないんだな〜。皆がみんな同じってわけではないんだね」


 その人物が地面から足を離さいのは遠くからでも分かる。それどころか、何か大きなものを振り回して戦っているようだ。自分が今までそうだったように、魔装の力を使えば負けるわけがないと思い余裕を取り戻している。移動速度は変わらないまま、辺りを見回す。


「日本とはとても思えないけど、ここは一体どこだろぉ?」


 少女が浮かんでいる足元には、砂粒が見渡す限り広がっている。まるで、海の無い砂浜のようだ。しかし、遠くの方には建物のような物もちらほら見えるが、それは少女が見慣れているビルや、マンション群ではないのは一眼でわかる。

 本来ならもっと、驚いたりパニックになるのが当然であるが、少女にとってみれば、もう自分の周りに何が起こっても不思議ではないのだ。

 非日常こそが日常になっている。


「それにしても、私が今まで戦って来たのとは違って、なんか生き物って感じがして強そうだな」


 次の瞬間人影が思いっきり、すっ飛ばされるのが目に映る。


「え!?」


 少女は今更ながら慌てて、その飛ばされた人影の方に飛んでいく。1体しかいない異物に負けるなんて少女とっては想像もできないことであった。

 あの個体が特別に強いのか、もしかしたらあの人影は今日が初めての敵対だったのか。頭の中では心配する気持ちと疑問が交差する。


「大丈夫ですか!?」


 ようやく大声を出せば、声が届きそうな位置まで来た。異物の位置を確認してすぐに詰め寄られれない場所だと判断して、その人物の安否確認を優先した。

 その人物は起き上がると同時に、声がした少女の方に勢いよく体を向けた。


「すまない! お前たちの手助けが欲しい!」


 状況が理解できたのかすぐさま助けを求めてきた。やはりこの人物一人では手に余る相手だったようだ。

 少女の魔装とは違い、その人物が纏っているのは、身を丸々包むほどのマントを着ており、付随しているフードをそれには派手さというものは一切無く、実用性を一番に考えてのもののように感じる。


「分かった!」


 少女も初めからそのつもりだったため、すぐさま了承の返事を返す。

 豪快にすっ飛ばされていた割には意外と平気なようすで、その人物はすぐに立ち上がり、少女の背ほどありそうな大剣を構える。

 少女もすぐさまそれに合わせるように、再び浮遊する。


「お前……! 飛べるのか!」


 戦いに夢中で、少女がどうやって近寄ってきたかを分かっていなかったのか、すぐ横で信じられない物を目にするかのような言動をとる。


「私が前に出るから、お前たちは無理しなくていいぞ!」


 今はそんなことに、かまっていられないとばかりにすぐに、戦闘モード入りすぐさま異物に対して、まっすぐ突っ込んでいった。


「やぁぁぁ!」


「あ! 危ない!」


 無策の突進は、あっけなく返り討ちに合い再び少女がいるところまですっ飛ばされて戻ってきた。


「クッソ!」


 自分では歯が立たないことは、その人物も分かっているようだ。しかし、それでも、その戦い方しか知らない者は、それを選択し続けない以外に方法は無

 い。

 いつか通用すると信じて。


「無茶しないで! 私がなんとかするから!」


「お前一人で大丈夫なのか!?」


 自分より、はるかに華奢なその少女を見て心配そうな様子だが、今この場には2人しかいない。


「大丈夫! 私慣れてるから!」


 そう言って、異物に向かって飛び立つ少女を見て、呆気に取られる。しかし、すぐさまその後を追うように、走り出した。


「いっくよ」


 少女は、あまりにも普段通り慣れた手つきで、攻撃を開始する。

 少女の意思のままに、周りを浮遊する幾多の光の物体が、異物に向かって一直線に飛び立つ。


「!?」


 フードの人物は、飛んでいる少女を見たときよりも、遥かに恐ろしい物を見たかのような表情をする。

 攻撃は当たり、あきらかにダメージを受けている様子がうかがえる。その攻撃で怯んでいいる間に、フードの人物は異物との距離を詰めることが出来、大振りな大剣一撃を食らわせる。

 驚きを隠せないでいる状況でもしっかりと、自身のやるべきことを、遂行する。


「やぁぁぁ!」


 そのままダメ押しの一撃で切り裂き、異物はチリになり消えていった。

 少女に取ってみれば、見慣れ過ぎたものであったが、フードの人物からすると、そうではなかったようだ。


「はぁ!? せっかく死ぬ思いで倒したのに、報酬は無しかよ!」


「やっぱりあなたも……」


 少女はその怒りの様子を見て、何かを確信する。


「嬢ちゃんありがとうな」


 感情の起伏が激しいのか、今目の前で見ていた怒りはすぐさま消え、落ち着いた声で少女お礼を言う。


「いえ、別に」


 さっきのことも踏まえ、すぐさま魔装を解くことなく、そのままの状態でフードの人物の前に降り立った。

 正面に立っても、表情が一切見えないほど深くフードを被っている、その人物。


「助かったよ。危うく死ぬところだった」


 そう言って、フードに手をかけめくった。










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