長野業正じ~さん。年寄りの冷や水








 小田井原に進出した西上野の軍勢、約四千。

 現在の高崎南部地域、倉賀野を支配する国衆十六騎を先鋒に長蛇の列を作っている。

 おい、それじゃ左右から伏撃されれば壊乱状態になるぞい。


 しかたないんだよね。

 街道を行く場合、長蛇以外に陣形取りようがないから。

 先行した大物見(威力偵察)が帰って来た時には既に武田の伏撃地点に到着しておりました。

 この辺りのタイミングが流石甲州勢という事で。




「しまった。伏兵か。大至急陣形を再編する!」

「して、如何様な陣形を?」

「……」


 こんな時に適した陣形などない。

 一般常識的に見れば先陣を方陣にして戦力を維持しつつ、後方の兵力で魚鱗などを組んで逆包囲とかなんだろうけど、伝令が討ち取られるだろうなぁ。


 躊躇していると左手の伏兵がざわめいている。

 何かが起きた。

 こちらからは攻撃がないと踏んだ業政じ~さん。


「全軍右に転進! 鶴翼の陣右手伏兵を半包囲するっ!」


 流石、黄斑(虎)。

 機敏で大胆。

 単純計算で二千を四千で包囲するんだからね。

 何とかなるでしょ。

 左手の武田兵を馬鹿が何とかすればだけどね。

 一応、千余りの後備えでこっちを手当てして三千で右へ向かう上州勢。




 一方、大馬鹿武将はというと。


 加速スキルを使わず、強引に敵兵をなぎ倒している。

 何という怪力!

 河越合戦の後、もっと重いこん棒が欲しいと政賢にせがみ(既に一文無しの慶次郎)、ようやく手に入れた五十欣(二百キログラム!)の金棒。

 長さ三メートルはあろうかという、イボイボのある鬼が持ちそうなあのイメージのこん棒である。

 よく作った! 鍛冶屋か技術者。きっとあの冬木の泣き上戸作であろう。



 ……しかし、本陣を目指していた慶次郎。

 途中でスタミナ切れを起こしていた。

 やはりST(スタミナ)も1にされていた。

 だが、そこは頑張った慶次郎。珍しくトレーニングしていた。

 なにせ、あの兵糧調達の際、死に物狂いで走り回ったのだ。

 その時の実体験から毎日パワーウォーキングを欠かしていない。


 ご近所のおばあちゃんと一緒に華蔵寺公園の周りを散歩するだけだが。



 もっとハードなトレーニングをしておけばよかったと反省しつつも、ようやく敵部将、板垣信方の馬廻りが目の前に出て来た。


「何をもたついている! 敵は一騎のみ。囲んで押しつぶせ!」


 いあいあ。

 そんな勇者はおりませぬ。

 既に百人以上の手勢が金棒の犠牲になっている。


 遠距離で倒そうにも、例の増加装甲付き甲冑で悉く防御される。

 たまに間接に的中するもDEFの高さであまり刺さらない。

 正に鋼の巨人だ!

 手が付けられない。



 勇猛な板垣の馬廻りが怯んでいる。

 更に後ろからは忍者の撹乱。

 伏檄をしようとしたがそれどころではない統制の混乱。


 ……まじめにやればこのくらいは出来るんだけどねぇ。


 でも!

 そこは慶次郎である!

 きっと何かをやらかしてくれるに違いない!

 そうでなければこの作品の読者が逃げていくぞ!!




 ピコピコピコ~ン


「な、何の音だ?」


 アラームのようなスマホの着信音のような音と共に全身がバイブ着信で揺れる。


「はうぅ~ん」


 奇妙な快感を憶える着信アラームだな。

 どこのどいつだ、こんなシステム作ってこの戦場内で鳴らす奴は!?

 もちろんあの面白存在である。



【慶次郎。リモート作戦モードに変更されました】


 ??

 そのような表示がステータス画面に現れる。


【これより自宅からのリモートワークに切り替えます】


 自宅にいるんかよ!!



「いまだ! あの武者の動きが止まった。弓矢を射掛けてから首を取れぃ!」


 無数の矢が至近距離から慶次郎の顔や関節を狙って来る。


【慶次郎初号機シンクロ率400% ACフィールド全開っ! バッテリー維持時間は一分です】



「ほほほ。感謝しなさい、馬鹿慶次郎。それならあんたでも悠々敵大将の首を取れるでしょう?」

「人の体で遊ぶな~~~」



 とはいってもこれで板垣信方の首は風前の灯火。

 迫るショッカ……違った。

 迫る金棒担いだごごんご~ん、これも違う。

 慶次郎に首を取られる板垣信方。


「板垣死すとも武田は死せず、無念!」



 そして臆病にも取っておいた「一日一回。ご使用は計画的に」的な加速スキルを使用し、はやき事風の如く逃げていった。


 こうして小田井原合戦は「志賀城崩れ」という不名誉な名前を後世に残すのであった。




 この合戦で上野方大将、長野業政の名前は日ノ本中に鳴り響くのだった。


 不審な動きをしていた大胡勢は「影の軍団」であるため、表には戦果は報告できなかった。

 出してしまえば実力以上に名声が上がり、いいように関東管領に使われてしまうからだ。

 代わりに今回も兵糧配りをして戦いを締めくくった大胡勢であった。


 慶次郎からは不満は出ない。

 何故なら白米の塩おにぎり食い放題コース一刻百文を只にしてもらったためだ。


 百文って安過ぎはしない?

 多分こいつ、二百個以上喰うぞ?





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