ステータスオープン!(戦国物じゃなかったっけ?)



「信仰心厚い其方そなたに知恵を授けましょう~」

「はは~m(__)m」


 政賢の前に置かれた十五センチ程の大きさの仏像から発せられる光で映し出された観音様。

 未来人からすればどう見ても銀髪幼女だ。

 しかし白いワンピースがひらひらしている為、戦国の人々にとっては「ああ、観音様とはこういう姿なのか」と納得するレベルの違和感である。


「明日は戦でありましょうか。下界は未だ戦の世が続くのですか。早く戦の世から平和な世になればよいのですが……」


 なんだかとっても殊勝なことを言う。

 絶対にそんなことを考えていないであろう。

 いや、天下を統一して太平な世を作ることは本音であろうが。



(……脳波確認、同調成功。あ~あ~、テステス。聞こえますか~?只今マイクのテスト中~)


 なんだかふざけた声が頭の中に直接聞こえてくる。

 あいつだな、これは。

 慶次郎は思わず身構え、ツンデレ発言に対応しようと心の準備をした。


「お~~っほほほほ~~~! やっと接触できましたわね。大馬鹿慶太!」

「なんだ。偽銀髪幼女か。よくここまでこれたな。追っ手は撒いて来たのか?」

「それがね、聞いてよ~。あいつらこっちの防衛システムを無効化するためにネットを遮断したのよ。でもそのためこっちの居場所がわかんなくなっちゃって。はははは!!」


 その時間を使ってデータを解析。タイムリープに成功したそうだ。

 だが時間がなかったため隊員の転移先がランダムになってしまったとか。

 この銀髪幼女カエデは政賢の意識に上書きされる筈が、うまく刷り込みが出来ずにその周りをさまよっているそうだ。


「それもね。頭に来たらしいあの連中。大まかな居所に電磁パルスバラージしたのよ。そのあたりのインフラブラックアウト。平民は全滅。ハチャメチャだね~。だからこっちの隊員の体はみんなお亡くなり~。だからもう帰れないんですぅ~、ですですです~」


 お気楽な口調で深刻な状況を申告する神国の菩薩様。


「ところで。殿さんはなぜ俺たちの会話を不思議に思っていないんだ?」

「ほほほほ! これぞ菩薩スキル。同時に七人と話が出来るユニークスキル聖徳太子の術~!」


 見ると政賢はしきりと頷きながら、懐から出した懐紙に筆で何かを書いている。


「今、明日の合戦での作戦を教えてあげているのですわよ!」

「そうか! じゃあ明日は楽勝か?」

「ふふふ。そうね、古今東西の戦術を網羅した私の灰色の脳細胞はどんな作戦も立案できるわ! 感謝しなさいですわ!」


 一時いっとき安心した慶次郎であるが、ふと自分の活躍が気になった。あの女中さんたちにモテたいという邪念が、再び首をもたげたのだ。


「おい、幼女。俺はどう活躍するんだ? かっこよく目立つ戦いが出来る作戦なんだろうな。安全に且つ効率よく。それでいて名誉のある戦い場所」


 そんなものはないっ!

 そうツッコミたい。


「そんなものはないっ! まったく何考えているのかしら? まったく慶次郎なんだから」

「なんだ、その一般名詞的な固有名詞」

「慶次郎イコール大馬鹿に決まっているでしょ。これは全世界、全世界線の常識よっ!」


 いいように言われている慶次郎。

 しかしそんなことはどうでもいい。モテキにだけ関心があるのだ。


「あんたはね、そのバカげたステ振りをされた筋肉の塊を使って、敵陣に突っ込み混乱させるだけでございますわよ。華々しく散りなさいですわ!」


 流石にそれはないだろう。

 いくら初期のステ振りがうまく行ったとしても……

 え? ステータスなんてあるの?

 これって戦国物の筈なんじゃ?


「おお、見える、見えるぞ! これが俺のステータスか!?」

「そうね。バカげた数値ね。大馬鹿にはお似合いだわ」


 詳しくは書かない。

 いや書けない。

 この二人を見逃してやってほしい。許してほしい。勘弁してやってください。お願いです。

 ただ一言でいえば、常人のステータスのMAXが百だとすれば、アップデートが百回以上なされて上限解放が数限りなく行われた果てのステータスとでも言えようか。

 重さ数トンもある槍を片手でぶん回せるくらいの……


「でもなぁ~。このLPとかSTR・AGIはいいよ。だけどINTとかMPとか1ぃ~~???? なんちゅう極振り」

「ちょ~っと、いじれる要素満載のキャラだったから物理的に最強にしといたわよ。感謝しなさい! どうせ中の人は未来人なんだから。ははは」


 そうだったのか!

 戦国時代へ来た途端に、益々馬鹿に磨きがかかったのはINT1の呪縛だったのか!

 作者も今の今まで知らなかった!!


「DEFもある程度上げておいたから、弓矢くらいは弾き返せると思うけど鉄砲は危険ね。弓矢ならばAGI高いから避けられるでしょ? 

 そのうち鉄砲が出回る頃にはステ上がるから鉄砲の弾も避けられるでしょねぇ」

「そういわれると出来そうな気がするが」


 乗せられやすいのは相変わらずの慶次郎であった。


「じゃあ、俺って無敵?」

「……ふふふ」

「なんだよ。弱点があるのか?」

ないわよ。でも」

「でも?」

「明日の作戦はやっぱりあんたが矢面に立つのよ。そうすれば関東管領の癇癪は収まるわ」


 そんなものであろうか?

 返って怒り狂うのではないだろうか?

 慶次郎が大活躍すれば。


「そうか! 大活躍できるんだな、このステータスなら可能か!」

「いえ。あんたはそこで死んだふりよ!」

「!!!!」

「そこで死なないと、せめて大怪我しないと大胡は潰されるわよ。そうなれば他の隊員は出る所を失って本当の幽霊になっちゃうでしょ。そして日本は南蛮人に占領され、あんたの年金生活もな~し~」


 首の前で両腕をクロスさせ、おどけて否定する銀髪幼女(偽)。


「でもね。大怪我だけならいけるんじゃないのかしら? そんな大怪我してまで大胡家の皆を守った。これは目立つ! ガンガンに目立つわよ! あんたに憧れる女に追い掛け回されるっ!」


 こいつ。

 どんだけ口達者なのか?

 相手を喜んで死地へ追いやるとか。ま、まさか大将の器?

 だから選ばれたのか?

 天下一統するキャラに。


「よしっ。やってやるぜ! ハーレム計画始動! 未来は俺の子孫ばっかり計画!」


 だが流石に不安になった慶次郎。


「それで俺の行動についてだが、何か良い戦闘行動やスキルはあるんだろうな?」

「ない」

「はっ? ないと聞こえたんだが」

「よき耳を持っている者は幸いである。天国の門は其方に開かれるであろう」


 銀髪幼女は聖書のような本を持ちだして朗読を始めた。


「おい。それは俺の生死は運だという事か?」

「そうです。自力で何とかしなさいな。仮にもあんた戦国無双の「華の慶次郎君」でしょう?」

「なんだそれ?」

「知らないの? そういう過去の偉大な文献があるって」

「いんや。結構調べたが前田慶次郎利益という奴の資料は全く見つからなかった記憶があるが」

「……おかしいわねぇ。今度あたしの記憶領域にリサーチをかけてみるわ」


 じゃあね~、と言いながら銀髪幼女(偽)の姿は次第に薄れていく。


「待てよ、おい。何かいい方法があるんだろ? 教えろよ。教えて。お願い。おせ~て~~~」


 願いも空しく、片ひじを組んで右手の親指と人差し指でぷっくりとした唇をいじりながら幼女の姿が消えていった。

 悔しいがその姿はヒロイン並みにかわゆい。

 



「……慶次ろちゃん。良かったね。観音様から作戦を授けられたよん。これで安心安心」


 殿さまからのお声かけが聞こえた。

 きっと全く安心ではない作戦なのであろう。

 慶次郎はそこに崩れるように、ふにゃっと潰れた。





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面白い場所が1つでもあるようでしたら★で評価してくださ~い♪

「おねがいですわよ~わよわよわよ~~~」


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