第2話
俺と卒業パーティ
―――コツコツコツ
俺は急ぎ足でなるべく音を立てずに「彼女」を探す。
(どこだ?)
「彼女」の習性上、テラスやバルコニーにいるかと思ったのだが、そこにはいなかった。
…………俺は柄にもなく緊張しているらしい。
少し頰が熱いのがわかる。
焦っているのを悟られぬよう、表情を消す。
ここ(大広間)にはいないな…………
そう思い、もう一度バルコニーへ出る。
バルコニーへでて、一度深呼吸をする。
「ふふふふふ。緊張しているの? レオノール様?」
その時唐突に、後ろから声が聞こえた。
俺の名を呼ぶ声。
……鈴の音のような、この声は、もしかして。
「シイアナ?」
「彼女」だった。
♢
その頃、大広間では。
「アシュラ殿下?」
「アシュラ殿下が?」
大勢の注目を浴びながら豪奢なレッドカーペットを踏みしめる燃えるような赤い髪を持つ青年。彼はこのホッドウ王国の第三王子、アシュラ・ホッドウだった。
彼は今年十八。この学園を卒業する年である。が、彼は陰でホッドウ国一のうつけ者と言われており、ほぼその通りである。
仕事の時のみ有能だが………
仕事は遊んでいる彼を捕獲しなければしてもらうことはできない。
彼は学園の授業をたまに出席日数のために出るくらいで、それ以外は取り巻きたちと、あと数人のご令嬢(いつも変わる)と遊び歩いているのである。まぁ、一つだけ良かったと言えることは、この学園が都市型で、学園の外に遊びに出ていないことくらいか………。
とりあえず、彼はずっと遊び回っていたのだった。「そのくせにいつの間にか公務は終わらせてるんだよ………」というのは彼の執事の言葉である。
そんな彼は今、沢山の人の注目を浴びながら談笑をしている一人の少女のところへ向かっている。
その少女は、二つに結った亜麻色の髪をふわりと揺らし、アシュラの方を振り返る。
そして、微笑みながらゆっくりと膝をおり、カーテシーをする。
それを見て、次々に会場の人々がカーテシーをして行く。
「……楽にせよ。」
その言葉とともに、人々はゆっくりと頭を上げる。
「お目にかかり光栄でございます、アシュラ殿下。」
「……っ、ああ。」
少女が微笑みながら挨拶をする。
アシュラは少し固まりながらそれに返す。
そして、少しぐっ、と息を呑み、ごくり、と喉を鳴らしてから、ゆっくりと片膝をつく。
周りの者達――特に男――が息を飲む音がする。
そして、すっと懐に入っていた小さな箱、指輪を入れる箱を取り出し、音を立てぬよう、ゆっくりと開ける。
そしてこうべを垂れ、息を吸い、一息にこう言った。
「この私と、結婚をしてくれないだろうかっ…!」
ざわりと、周りがざわつくのが分かる。
そのプロポーズを受けた少女は、驚いた顔をし、そのあと、覚悟を決めたように桜色の唇を引き締めた―――
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