架空

長万部 三郎太

妄想するわたし

フリーメールが世の中に普及して久しいが、昔作ったアカウントの存在を忘れている人も多いのではないだろうか。


わたしもその1人だ。


ふと思い出したかのようにブラウザを開いてメールボックスを見てみると、大量の “架空請求メール” で溢れかえっていた。


まるごと消去するかと思った矢先に、ひと際異彩を放つ『件名』に目が留まる。



『17億5000万円振り込みさせて下さい』



……なんという僥倖。


常日頃より、竹やぶに3億円が入ったバッグが落ちていないかと妄想するわたしにとって、この金額はあまりに魅力的すぎた。


画面に表示された送金手続きの案内に従い、カード情報や住所・氏名を入力すると、すぐに新たなメールが届いた。


「相手も送金したくて必死だな」


どんな事情があるのかは分からない。

ただ、このメールの主はわたしにお金を渡したがっている。それだけは確かだ。


次々と届くメールに対応すること1時間。

わたしは夢中になってキーを叩いた。


しばらくすると相手のレスポンスが鈍ったのか、続報が全く届かなくなった。



「やはり、架空の個人情報じゃダメか……」




(筆休めシリーズ『架空』 おわり)

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架空 長万部 三郎太 @Myslee_Noface

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