第4話

 いくらダンティル様が王子殿下とはいえ、ここでは一生徒。順番を待ちと並びます。

 食事は数種類が小皿に小分けされ盛られているので、トレーに好きな物を乗せていく形式となっております。

 選び終わりましたら、用意された紙に生徒番号とお皿の数を書いて会計係に渡し、会計係は生徒カードとお皿の数を確認するのです。お金は各家に請求されることになっております。

 ちなみに子爵家男爵家は無料ですのよ。


 ダンティル様は三人分のお皿の数を書き提出なさいました。


 それぞれのトレーを持ってダンティル様についていくとお席が空けてありました。一つ離れて側近の皆様がいらっしゃいましたので、彼らがご用意してくださったのでしょう。私達はそちらに軽く頭を下げて隣同士で座りました。


「会計係の方はね、二年生三年生のお顔とお名前を覚えていらっしゃるのですって。そうでなければ、この速さでは捌けませんものね。

どこにでも優秀な方はいらっしゃるのね」


「そんなものは慣れれば誰にでもできるだろう?」


 ダンティル様は軽くおっしゃいます。誰かができないことを見下す方ではございませんが、ダンティル様ご自身ができることは努力すればできることだとお考えなのです。努力してもできないこともあるし、努力のベクトルが異なることもありますのに。


「誰にでもできることではありませんわ」


 わたくしの考えがダンティル様にお伝わりになるといいのですが。


「ベティーネ様はクラスメートのお顔と名前をすでに覚えていらっしゃるのですよね?」


 アンナリセル様のお話の方向が解らずダンティル様は片眉を上げて訝しみます。

 わたくしも一瞬考えてしまいましたが、わたくしのフォローをしてくださることに気が付きました。アンナリセル様に笑顔でお答えいたします。


「ええ。クラスに知らない者が入ってきたら、まずは確認せねばなりませんから。クラスメートのお顔を知らないとそれもできませんもの」


 ダンティル様の二つ隣にいて今日は他人のフリをなさっている赤髪のエリアウス様があからさまに肩を跳ねさせました。まさかエリアウス様は覚えていらっしゃらないのかしら?

 団長子息様なのでダンティル様の護衛として前の出入り口近くのお席なのです。それは困りますわ。


「私はまだお二人のことしかわからないのです。やはり、得意なことと不得意なことはありますよね」


 強引に話を纏めたアンナリセル様にもエリアウス様のご様子がお見えになるなったのでしょう。苦笑いで返してしまいましたが、アンナリセル様もホッとしてくださったようです。


〰️ 



 翌朝、学園へ向かいますと前にアンナリセル様のお背中が見えました。わたくしは歩を速めます。

 やっと追いついたのはすでに学園の玄関でした。アンナリセル様は言語担当の先生にお声をかけらておりました。


「アンナリセル君。昼休みに図書室の整理を手伝ってもらいたいんだ。図書室の整理室に昼食の用意はしておく。

頼んだよ」


 先生は言い捨てるようにして颯爽と消えていきます。アンナリセル様は先生をお止めになりたかったようで手を前に出し固まっておいでです。


「わたくしもお手伝いしますわ」


 振り向いたアンナリセル様は輝く笑顔になります。

 しかし、わたくしの後ろからそれを再び曇らせるお声がかかりました。


「ベティ、今日は授業を午前で終わりにしてくれ。母上が午後にお茶に来いと申していた。学園の話をしたいそうだ。まだ三日目で何もわからないというのにな。

まあ、お前を気に入っているから会いたいだけだろう」


 ダンティル様のお母上様はもちろん王妃陛下ですからお断りすることはできません。


「ダンティル様。かしこまりましたわ。

アンナリセル様。ごめんなさいね」


「あはは、大丈夫ですよ」


 乾いた笑いをするアンナリセル様はとても不憫に見えました。

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